直球&曲球

熊野の地に根付く新時代への壮大な挑戦 葛城奈海

 周囲が夕闇に包まれると、急に、目の前を流れる大又川の川音が存在感を増した気がした。三重県熊野市飛鳥町に、昨秋、国際共生創成協会「熊野飛鳥むすびの里」が開所した。代表を務めるのは、陸上自衛隊特殊作戦群初代群長で、明治神宮武道場至誠館前館長の荒谷卓氏だ。

 自由競争がもたらす格差と紛争の絶えない世界を終わらせ、人々が繁栄と幸福を分かち合える世の中をつくる鍵は、日本人が伝統的に受け継いできた慣習文化の中にこそある。そう考えた荒谷氏は、自ら実践的挑戦者として熊野の地に飛び込んだ。

 熊野は世界遺産のど真ん中、イザナミノミコトのご陵とされる花の窟(いわや)神社があるなど神話の里でもある。至誠館館長時代に武道合宿の場を探す中で、地元紙の社長が所有していた青少年育成施設に出合い、同所を引き継ぐ形で、活動拠点とした。

 活動を支援する仲間のひとりとして私もしばしば訪れているが、驚くのは、地元の方々の惜しみない協力ぶりだ。連日のように里を訪れて茂り過ぎた木々の伐採や側溝の修復に力を貸してくれたり、鹿肉や猪肉、みかんなどを差し入れてくれたり…。なぜそこまでと思い、常連のひとりに尋ねたら「10年、20年と居続けてもらいたい。先人から受け継いだ知恵を伝えることでお役に立てるのは、うれしい」と満面の笑みで語った。

 神話と歴史の勉強会、キャンプ自活講習、武道研修など、趣旨に賛同するなら誰もが参加可能な「むすびの里」の活動は、いよいよ春から本格化する。里では平素も、山仕事やまき割りなどさまざまな体験ができる。最初は難関だったまき割りもコツを教わり、数を重ねて進歩が実感できると達成感につながる。ひとりでは果てがないように思える山仕事も、仲間と力を合わせ、成果が見えたときの充実感は格別だ。

 頭でっかちな現代の生活で、われわれは心と体のこんな健やかな喜びを忘れてはいまいか。生き物として根源的な生命力の覚醒と活性化。新時代への壮大な挑戦は、そんな足元の小さな、しかし力強い一歩から始まる。

【プロフィル】葛城奈海(かつらぎ・なみ) やおよろずの森代表、防人と歩む会会長、ジャーナリスト、俳優。昭和45年、東京都出身。東京大農学部卒。自然環境問題・安全保障問題に取り組む。予備役ブルーリボンの会広報部会長。著書(共著)に『大東亜戦争 失われた真実』(ハート出版)。

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