【酒呑み鉄子の世界鉄道旅 ビールに溺れるチェコ国鉄の旅(2)】「かんぱーい!」 プラハ中央駅(プラハ本駅)に到着してわずか1時間後。まだ午後2時過ぎだというのに、私は薄暗いパブで、ビールジョッキを合わせていた。正面に座ったビール通のチェコ人男性から反時計回りに、スペインの自分探し(住み込み)女子ふたり、ロシアのプラハ常連、ブラジルの大道芸人、米シカゴのバックパッカー、レバノンのチャラい道楽息子3人組、オランダの背の高い美人。なぜ初訪問の国で、国籍も年代もバラバラの人たちと酒を酌み交わしているかは後述するとして、「チェコでは定番の軽いおつまみ」として薦められたメニューに驚いた。だって水死体ですよ。(写真・文/トラベルジャーナリスト 江藤詩文、取材協力:チェコ政府観光局-チェコツーリズム、レイルヨーロッパ、日本ユースホステル協会)
アメリカ人以外は全員英語が片言だったのもあって、料理の説明が「デッド・ボディ・イン・リバー」って。自分の英語力の低下による間違いかと、思わず聞き返した。
これはチェコ語で「ウトペネツ(水死体)」と呼ばれる、調味料を加えた酢でマリネしたソーセージのこと。ソーセージならそうと、ひと言先に言ってほしい。お店の人によると、しっかりした昼食をとった後でも、ボリュームのあるソーセージを丸ごと1本ぺろりと平らげられるように、さっぱりと酢漬けされているらしい。そこまでして間食にソーセージを丸ごと食べなくてもいい気がするが。チェコ人、恐るべし。
さて、右も左も分からない街で、到着そうそうこんな体験ができたのには理由がある。ヨーロッパ鉄道旅行の先輩の薦めにより、ユースホステルに泊まってみたのだ。
ユースといえばバックパッカー御用達で、プライバシーがなく、若い人しか利用してはいけないイメージ。友達との旅行でも、できれば部屋を別に取りたい私は、これまで宿候補としたことさえなかった。ところが、ヨーロッパでは個室があり、アメニティが揃い、大人が利用しやすいユースホステルがあるという。しかも宿泊料金はリーズナブル。プラハのように世界中から観光客がおし寄せる人気都市で、ホテルが取りにくく料金が高い街でこそ、ユースの強みが生かされる。
試しに1泊してみたら、インテリアは確かに簡素だが清潔。バスタオルやヘアドライヤーは、部屋番号を告げれば無料で借りられる。ヨーロッパでは珍しく、アメニティには歯ブラシまであった。最大3人まで泊まれる部屋が空いていたこともあり、後日泊まった3ツ星ホテル(料金はユースの2倍弱)より、ずっと広々としている。Wi-Fiも安定していて、地下鉄や路面電車の駅から近く、プラハ城まで歩いて10分と立地もいい。
ま、これだけなら設備の整ったホテルと変わらないが、ユースホステルのいいところは、宿泊客同士のつながりが生まれること。私が到着したのは、ちょうどみんなが飲みに行くタイミングで、取るものも取りあえずビアパブ行きとなったわけだ。
住み込みで働くスペイン女子ふたり組が案内役となり、街歩きをしてくれた。レートのいい両替方法、治安のいい場所と悪い場所、品揃えのいいスーパー、おすすめのレストランやカフェ。地元に慣れていながらも、外国人旅行者としての視点も兼ね備えた彼女たちの生きた情報は、ひとり旅の私にはありがたいことこの上ない。
移動が中心の鉄道旅の場合、できるだけ短時間でその街に馴染みたい。特に英語が通じにくい国では、多国籍なスタッフが英語でサポートしてくれるし、1泊めにユースホステルというのは、なかなかいい選択かも。これは新しい発見だった。
集まりに参加してもしなくても自由というゆるさも心地いい。大量のビールを買い込み、夜は明け方まで「ビアポン」をして酔っぱらうというお誘いは、「お若い方だけで」と、丁重にお断りした。
夕食を済ませて戻ってみると、「ビアポン」で一番大はしゃぎしていたのは、60代の夫婦だった。