芥川賞「受賞2作はほぼ同点」 奥泉光選考委員が講評

「率直に申し上げて、3作の評価はかなり低かった。実は今日私が会見に出てきたのは、他の方がみんな×を付けた中で、私だけが△を付けていた、という理由がありまして。私が△を付けたのは、鴻池留衣さん(31)の『ジャップ・ン・ロール・ヒーロー』(新潮9月号)と、古市憲寿さん(34)の『平成くん、さようなら』(文学界9月号)です。(3作には)たいへん厳しい意見が多く、厳しくないのは私だけでした」

「『ジャップ-』は、ウィキペディアのページというアイデアを使いながら、ロックバンドの人たちの姿を描く小説で、アイデアは面白い。過剰な言葉と過剰な出来事が描かれて、私個人は強く推すほどではないが、ひかれるものがありました。ただ、選考ではその仕掛けが十分に生かされていないという批評が多かった」

「『平成くん-』は、安楽死法が実現している架空の日本というのがポイントです。その設定がどこまでわれわれが今生きている世界に対して批評性を持ちうるのかという問題がありまして。私個人は一定の批評性を認めてはいいのではと考えました。しかし選考の場では、ほとんどの選考委員がそこに批評性はない、その設定が必ずしもわれわれが生きるこの時代、平成の時代に対する批評性を持ち得ていないという意見が大勢でした。特に安楽死について、本来死ぬことができない人のためのものなのに、この小説では死にたい人のためのものになっている。この扱いは雑なのでは、という意見がありました」