iRONNA発

平成30年史 日本人の意識はどう変わったか 呉智英氏

 こうした中でナショナリズムの風潮も台頭するようになった。これが従来のナショナリズムと様相を異にするのは、思想界・言論界から始まったものではなく、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)が典型的なように、一般市民の運動、発言として出現したことである。

 これには平成期に驚異的発達を遂げた通信、情報の拡大が背景にある。要するにパソコン、携帯電話、スマホが爆発的に普及し、これによって「大衆的言論空間」とでも呼ぶべきものが出現したのである。このことは出版文化の低迷を招くことにもなり、かつて出版界にあった知識、情報の階層秩序も崩れ始め、悪(あ)しき平準化が観察できるようになった。

 ◆「安心」とは何か

 また、平成七年には、社会の「安全」にかかわる大災害、大事件が続いて起こった。一つは、一月十七日の阪神淡路大震災である。もう一つは、三月二十日のオウム真理教による地下鉄サリン事件である。この凶暴かつ異常な宗教団体の犯罪によって、信教の自由論を含む日本人の宗教観は大きくゆさぶられ、治安意識にも変化が現れ出した。

 六年後の〇一年九月十一日、ニューヨークの世界貿易センタービルにイスラム系テロ組織のハイジャックした旅客機が突入自爆し、約三千人の死者が出た。宗教の種類は異なるものの、宗教が常に平和を実現するものとは限らないことを、内外のテロ事件は教えている。

 そして、平成二十三年三月十一日の東日本大震災は、千年に一度の規模の広範な巨大災害であり、「安全」と同時に「国土」という意識をも喚起したと言えよう。死者は約一万六千人にも及び、今なお行方不明者の遺体が発見されている。この大災害は原発破損ももたらし、直後に関東圏から西日本に避難する人たちもあった。保守系の反原発論者の主張には、安全な国土という意識が垣間見られる。

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