寒いのに暖房器具のタイマー予約を忘れた朝。けたたましく鳴る目覚まし時計がうとましい。だが、家族の好みや行動予定に合わせて室内の温度や明るさを調整する人工知能(AI)が家族を見守る家ならば、タイマーを設定するなどの煩わしさから解放され、寒くても暑くても心地よく目覚める朝を迎えられるようになるかもしれない。
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ブラインドが自動で開き、差す朝日が顔を照らす。寝室もリビングも好みの適温に暖められ、洗面所に向かおうと廊下に踏み出すと、晴れた朝にぴったりのBGMが流れ出す-。就寝前の予約や、ベッドを出てからなんらかの操作をしたわけではないのだ。
「家自体にAIが備われば、できるようになることが山ほどある」
今はまだ少ししかできていないけれど、と前置きした上で、パナソニックのAIソリューションセンター所長、九津見洋(くつみ・ひろし)さんはAIのある暮らしの未来を語った。起床の場面は同社が今後、AIによって実現するだろうと想定しているイメージの、ほんの一例だ。
行動パターンを観察
同社は創業100周年を迎えた平成30年11月、家電や住宅設備がネットワークでつながり、AIが住む人の習慣を理解して進化する次世代住宅「カサート アーバン」を発売した。
「これからのAIは家族を見守り、よりそうような存在になる」と九津見さん。家族の行動パターンや食材や日用品の買い置きなどを日々観察して賢くなり、長く住むほど快適な家になる。同社が描くのは、そんなイメージだ。
住宅から家電、壁の電気スイッチまで、住まいを取り巻くさまざまな商品を展開する強みを生かし、将来的には、「冷蔵庫の残りものから『今夜は冷えそうなのでグラタンはどうですか』などと提案したり、グラタンが仕上がる頃を見計らってスープも同時に完成させたりする。そんなこともできるようになりそうです」(九津見さん)という。
住むほどに深まる学習
「電子レンジの調理履歴や冷蔵庫の買い置きから、その人の好みや行動様式を認識して、肉ばかりを食べていたら『たまにはお魚どうですか?』と提案したり。そんな時代がやってくるのは意外と早いのではないでしょうか」。そんな予想を立てるのは、PwCコンサルティング(東京都千代田区)の吉田泰博ディレクターだ。
AI搭載型のマンションを都内2カ所で販売する不動産会社「インヴァランス」(渋谷区)の坂口ひとみ広報室長は「住む人と年月をともにするほどAIは、学習を深め家族ごとの好みも把握していく」と話す。
その結果、子供がテレビの前に座れば、そのとき放送されている中から好みの番組を選んだり、服薬習慣がある人には、薬の飲み忘れを指摘したり。そうした機能を家がもつようになる可能性もあるという。AIは、提案し、家族を見守る家を、近い将来実現する。