さらなる技術を日本が追求する上で、強力なライバルや阻害要因も存在する。その克服には、外にも目を向けていかねばならない。
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中国中部の安徽(あんき)省。省都、合肥(ごうひ)市郊外の蜀山(しょくざん)湖畔には、面積が上野公園(東京都台東区)5個分に相当する約2・6平方キロメートルの小さな半島がある。
水と緑に囲まれた入り口近くに高さ約3メートルの石が置かれ、その上に「科学島」という3つの赤い文字が大きく刻まれている。1998年、当時の国家主席、江沢民が視察したときの揮毫(きごう)だ。
この半島のほとんどが、中国の最高レベルの研究機関、中国科学院合肥物質科学研究院の敷地だ。2018年11月、同研究院の核融合装置で「中国初の人工太陽が完成した」というニュースが大きく報じられ、同研究院の別名である「科学島」が中国メディアの注目の的となった。同研究院の入り口で記念写真を撮るために、わざわざバスでやってくる観光客も少なくないという。
「人工太陽の完成」とは、原子核と電子が飛び回る「プラズマ」の電子温度を太陽の中心(約1500万度)の7倍近くの1億度以上に加熱したことだ。
実験の狙いは、太陽の核融合反応を地球上で起こし、生じたエネルギーを利用する核融合発電の実現だ。原子炉より安全性が高く、高レベル放射性廃棄物も排出しないため、原子力に代わる次世代エネルギーとして期待されている。
研究を主導した同研究院の李建剛博士は中国メディアに対し、「核融合に必要な原料である重水素は海水中に無限にある。理論上、コップ1杯の海水が300リットルのガソリンと同じエネルギーを作り出すことができる。夢のような未来だ」と語った。