刺されると激痛! ハリケーン後の米国東部を襲った「巨大蚊」の正体

その口器は牛の皮膚をも貫通する

すべての蚊には、血を吸う際に獲物の皮膚を切り開くのに使う「小顎」と呼ばれる鋸歯状の口器がある。たいていの種はこの小顎が小さく鋭いので、刺されてもチクリとした痛みしか感じない。

しかしガリニッパーの小顎は、もっと大きな獲物向けだ。牛の皮をも貫通する小顎をもっているのは、ガリニッパーだけである。肌のかなり深いところまで突き刺すため、表皮の神経細胞はひどい刺し傷を負ったと体に伝達する。つまり、体は鋭利な物で刺されたと判断するわけだ。

サウスフロリダ大学セント・ピーターズバーグ校の生物学者デビー・カッシルは、次のように話す。「皮膚の深い部分を傷つけられたということは、体が危険な状態になったということを意味します。そのため、非常に激しい痛みを引き起こすのです」

異常気象に適応したガリニッパー

米南東部全域で少数が見つかるが、もともとはミシシッピ・デルタの沼沢地に生息していた種だという。殺虫剤と人口密集地における人間による土地開発の影響で、ほかの種の蚊は小型化し、繁殖ペースを速めている(年に複数世代発生することもあるくらいだ)。

しかし、ガリニッパーは別の戦略をとった。巨大な雌が低地の草原に大量の卵を産むのだ。ほとんどの卵は干上がって1~2年で死滅する。しかし大雨が降ると、生育可能な卵がすぐに孵化するのである。「彼らは頻繁には起こらない珍しい気象条件に適応したのです」とカッシルは語る。

ではハリケーン「フローレンス」のように、めったに見られない規模の洪水を引き起こす気象現象がもっと頻繁に起こるようになったら、どうなるのだろうか?

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、地球温暖化によって今後ハリケーンが増えるかどうかについては科学的に不明だが、発生するハリケーンはいままでよりも強力になるという。大気中の水蒸気が増え、海水温が上昇すると、沿岸沿いに何日も停滞する「フローレンス」や「ハービー」のようなハリケーンが増えるのだ。

ノースカロライナ州立大学の公衆衛生昆虫学者マイケル・ライスキンドは次のように語る。「気候変動と巨大蚊の関係は難題であり、科学者が予測するのは困難です。とはいえ、フローレンスのように大洪水をもたらす気象現象が毎年起きるようになったら、こうした蚊の個体数は増えると考えねばなりません」

洪水の頻度が増えれば、卵の死亡率は年々低下する。ガリニッパーの卵たちは、毎年の受難から解放されるわけだ。

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