田村秀男のお金は知っている

中国伝統知財権侵害をトランプ大統領は変えられる?

 よく言えば「変幻自在」、悪く言えば「予測不可能」とワシントン・ウォッチャーを悩ませるのがトランプ大統領の外交術だが、かなりの成果を挙げているのが何とも心憎い。

 先のアルゼンチン・ブエノスアイレスでの習近平・中国国家主席との会談では来年1月に予定していた中国からの輸入品2000億ドル(22兆5700億円)分への制裁関税10%について、25%への引き上げを90日間猶予するとした。これについては、米国や日本のメディアの中には、「米中貿易戦争休戦」だとか、「トランプ政権内部の穏健派対強硬派の対立の結果」と解釈する向きがあるが、早とちりもいいところだ。

 トランプ政権の要人からじっくり取材してみると、「中国が変わらない限り貿易戦争は続く」(ミック・マルバニー行政管理予算局=OMB=長官)との見方で政権内の意思統一ができ上がっている。「中国が変わる」とは習体制を変えるという意図ではないようだが、変えるべき不公正貿易慣行の範囲は無限とも言える。

 例えば、知的財産権侵害をやめさせる、とは中国人に対してこれまでのしきたり、ビジネス慣行を捨てよ、と命じるのに等しい。卑近なケースはブランド品の偽物やソフトウエアなどの海賊版だが、中国当局に言わせれば20年以上も厳しく取り締まってきたことになる。1990年代後半に、当時のクリントン大統領が訪中した際、大統領の訪問地からは一斉に偽物が店頭から消えたが、大統領が去ると瞬く間に元の木阿弥で、この光景は今なお変わらない。

 香港の骨董街の店をのぞいてみると、秦、漢時代と称する置物が所狭しとばかり並んでいる。値は1万円以下で安い。店のオヤジさんに「こんな値段で出るはずはない。偽物だよね」と話しかけると、「そうだよ。でもね、中国ではね、コピーはいつの世もある。漢の時代のオリジナルが、宋、明、清、さらに現代というふうに繰り返しコピーされてきたのさ。偽物の偽物というわけだね」と。要するに偽物づくりは中国の伝統文化なのである。

 ハイテクの窃盗やサイバー攻撃や技術提供の強要をやめるよう強く抗議しても、その伝統の上に立つ共産党政権や組織自体が知財権侵害に手を染め、指令し、実行している。

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