高見国生の認知症と歩む

(5)「安心できる場所」伝える

 「3日前の夕方、母が突然、『早く家に帰らないといけない』と言い出して、家を出ていこうとした」と、母親の行動に驚いている男性がいます。男性は「ここはお母さんの家だよ」と一生懸命に説明したが、母親は聞き入れず押し問答を繰り返したと言います。時間が経過して、母親は疲れたのか眠ってしまったのでその夜は収まったのですが、また同じことが起こったらどうしたらいいのかと、その男性は悩んでいます。親が突然こんなことを言い出したら、誰でも驚き、どう対応したらよいのか分からずにパニックになってしまうでしょう。しかし、これは認知症の人の場合よくあることで、少しも驚くことではないのです。

 認知症の症状の一つに「見当識障害」というものがあります。今がいつなのか、今いるのはどこなのか、などが分からなくなるのです。あなたがそんな状態になったらと想像してみてください。とても不安になり混乱しますよね。認知症の人も同じです。不安になって「早く安心できる家に帰りたい」と思うのです。

 そこへ、「お母さんの家はここですよ。どこにも帰る家はありませんよ」と言われたら、いっそう混乱するでしょう。

 認知症の人の言うことを否定してはいけない、怒ってはいけないというのは、認知症の人が余計不安になり、混乱するからなのです。