海峡を越えて 「朝のくに」ものがたり

(46)姜尚中 在日2世物語の終焉 もう国籍にこだわらない

20年前から考えた帰化

 姜自身も、もはや「国籍にこだわるつもりはない」と話す。姜以外の家族はすでに日本国籍だ。

 「日本で生まれ、住み続け、日本で土に還(かえ)る。私は、日本以外へ出たいと思ったこともない。日本にいる以上、日本の流儀に従うべきでしょう。唯一、こだわりがあるとすれば、『姜尚中』という名前だけですね。それも、私の世代で終わる。後は、活字の中で『そんな名前の人がかつていたんだ』というくらいで残ればいいのです」

 姜が日本への帰化を考えたのは20年ほど前からだという。ちょうど、東大教授に就任したころだ。

 少年時代、なぜ、在日韓国人に生まれてきたのかと苦悩し、出自を隠して「永野鉄男」を名乗った。やがて、韓国の民主化運動に身を投じ、「姜尚中」として生きてゆくことを決意。初めての訪韓、埼玉県の「指紋押捺(おうなつ)拒否第一号」、そして、さまざまなメディアでスポットライトを浴びた華々しい活躍…。

 姜は、日本への帰化を「外来種から、本当の在来種への転換。その物語を完結させる儀式」と表現した。「あと10年…いや3、4年後には日本国籍を取ることになるでしょう。そして、日本人論を書いて終わりたいと思います」

 3世、4世にとって、もはや朝鮮半島は「父祖の土地」という以外の意味はない。日本人と同じような生活をし、民族意識は薄く、言葉もままならない…。毎年、減り続けているとはいえ、それでも、いまだ50万人近くが外国籍を維持している『在日』という存在は、アメリカや中国などのコリアン系住民にとっては奇異に映るらしい。

 「お前たち(在日)は、言葉もできないくせに、そんなに民族意識が強かったのか? 『シーラカンス』みたいじゃないか、ってね。ただ、彼らは『自分が誰なのか』を知っている。在日はそれがよく分からない。すがるものがないから『国籍』にしがみつく一面もあったのです」

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