黄門かわら版

ワインの灯が消える前に

 突然の決定に言葉を失ったワイン通も多かったようだ。日本初の本格的ワイン醸造施設として愛されてきた「牛久シャトー」(牛久市)が年内をもってレストランやワインセラーなどの施設を閉鎖する。「業績悪化」が理由という。

 9月はじめ、肉の祭典と日本ワインに誘われて、水戸から牛久へ向かった。JR牛久駅から徒歩10分、こんもりとした木立の中にワインの里が現れた。

 明治36年、牛久シャトーは「神谷バー」で知られる実業家、神谷傳兵衛(でんべえ)によって創業された。国の重要文化財、旧醸造施設の庭に、ワイングラスを片手に肉や生ハムを頬張る家族連れや若者の姿があった。汗を拭いながら、夏の終わりを惜しんでいた。

 この日、施設の閉鎖を知る観光客はだれ一人、いなかったはずだ。シャトーからの帰路、周辺に立ち寄れる観光スポットが乏しいことに気づいた。例えば、ワイナリー巡り。ワイナリーが点在する山梨・甲州エリアなどと違って、歩いて回れる距離に醸造所がなく、「もう一軒」というわけにはいかない。肉フェスのようなイベントがなければ、首都圏のワイン通は牛久ではなく、勝沼へ足を向けるのではないか。

 北関東の地方都市で孤軍奮闘してきた牛久シャトーは来月28日、最後の日を迎える。残り1カ月。幕末の世、三河(愛知県)で生まれた実業家の先見の明に敬意を表し、いま一度、グラスを傾けたい。(日出間和貴)

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