話の肖像画

ノンフィクション作家・神山典士(58)(1)

ノンフィクション作家・神山典士
ノンフィクション作家・神山典士

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■「北斎」は日本の大コンテンツ

〈実在した人物像に迫るノンフィクション作家。現在のテーマは江戸後期の絵師・葛飾北斎だ。今年、出生地の東京都墨田区や、晩年に大作を残した長野県小布施(おぶせ)町など、ゆかりの地の有志で設立した「北斎サミットジャパン」委員長に就任した〉

北斎は時代や国境を超えた、日本のアイデンティティー。19世紀末ヨーロッパのジャポニスムに始まり、ゴッホやモネなど印象派の画家たちを魅了しました。代表作「神奈川沖浪裏(なみうら)」は現在も「グレートウエーブ」として世界から絶賛されています。

しかしなぜか、日本人自身がその価値にピンときていない。東京五輪に向けてインバウンド(訪日外国人客)が大挙する中、北斎という資産をいかに活用していくかが大事です。日本の観光4大コンテンツとして、「大自然の富士山」「歴史の京都」「エンターテインメントの東京」に「アートの北斎」を加えて世界に発信していきます。

サミットには、「冨嶽(ふがく)三十六景」の「駿州(すんしゅう)片倉茶園ノ不二」が描かれた静岡県富士市が加わるなど地域連携も広がっています。ゆかりの地を結ぶ巡礼コースを整備し、日本全体の元気につなげたい。人生50年の時代に90歳まで生き「画狂老人卍(がきょうろうじんまんじ)」として傑作を描き続けた北斎は「人生100年時代」のロールモデル。人間北斎を知ることで現代人はヒントがもらえます。

〈今年7月、「知られざる北斎」(幻冬舎)を出版。19世紀末のパリで浮世絵を印象派の画家たちへとつないだ日本人画商、林忠正の存在にページを割いている〉

ヨーロッパに残っていた資料に出合えたのは大きな収穫でした。当時、ジャポニスムは春画ブームでもあったので、パリに忠正がいなければ、日本人は単なる好き者という印象で終わっていたかもしれません。おいらんの教養の高さなど、日本の性文化や性教育を正しく彼が伝えたおかげで、正当な評価を得られた。その功績は日本で知られていない。それどころか、明治維新後に価値を失った浮世絵を西洋人に高く売ったことで、売国奴扱いまでされています。名誉回復をしなくては。

〈来年4月18日の北斎の没後170周年に向け、さまざまな企画を仕掛ける〉

実はクラシック音楽にもジャポニスムがあって、ドビュッシーはそのシンボル。組曲「ラ・メール(海)」初版楽譜の表紙には、グレートウエーブが使われているんです。今、音楽家の新垣(にいがき)隆さんに「北斎」をテーマにした新曲制作をお願いしています。(聞き手 重松明子)

【プロフィル】神山典士

こうやま・のりお 昭和35年、埼玉県生まれ。信州大学人文学部卒。平成8年、「ライオンの夢 コンデ・コマ=前田光世伝」で小学館ノンフィクション大賞優秀賞。24年「ピアノはともだち 奇跡のピアニスト辻井伸行の秘密」が青少年読書感想文の課題図書に選定される。26年、代作が発覚した佐村河内(さむらごうち)守氏の報道で大宅壮一ノンフィクション賞など受賞。

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