昼なのか夜なのか。不思議なダークさが満ちた画面に浮かぶ長方形。周囲の情景を確かめると、長く使われずに放置された巨大な構造物であることがわかる。似たような廃虚がいくつも並ぶ。ニューメキシコ、コロラド、テネシー、テキサス…きっとあちこちにあるのだろう。
東京・東麻布のギャラリー「PGI」でオサム・ジェームス・中川さんの写真展「Eclipse:蝕」が開かれている。車に乗ったまま映画を観賞するドライブインシアターの跡地をアメリカ各地で撮影したシリーズだ。
米国在住の中川さんは、沖縄で戦争の記憶を伝えるガマ(洞窟)などを撮影したシリーズで知られる。本作は何階調ものグレーインクを使ってプリントされていて、白い部分を作らないように制作している。解像度の高い繊細なグラデーションが鑑賞者を引きつける。
ドライブインシアターは1970年代以降は下火となったそうだが、日本でも映画などを通じて知られ、車と映画という華やかなアメリカ文化の象徴のように思われていた。
しかし、ニューヨークに生まれ、日本と米国を行き来しながら暮らした写真家は「見せかけのアメリカンドリーム」と感じていたという。
現政権の掲げる「グレート・アゲイン」への違和感から、90年代に撮った写真を焼き直し、新たに撮影も重ねたという。社会格差、排他主義…。思索をうながされ、暗い画面がぐっと重みを増す。
12月22日まで、入場無料、日祝休み(03・5114・7935)。