日本の教育の一番の問題は、戦後、その体制が変わっていないというところにある。しかし、戦後70年以上がたち、今も同じ教育でよいわけはない。
例えば、いまだに大人数の集団指導体制を基本としていることだ。地域や学年によっていくつかの基準が別途設けられているものの、1学級40人を原則としている。中学校になると40人を超える学級は、特に私立に多く、公開授業や参観などでは、教室の後方に座る生徒は、ほとんど授業に参加していない。1人の先生の目の行き届く範囲は、感覚的にみても、せいぜい20人くらいと考えるのが常識ではないだろうか。
事実、経済協力開発機構(OECD)加盟国の1学級の人数の平均は小学校では21・2人、中学校では23・3人である。これに対し日本は小学校で26~35人学級が50・8%を占め、中学も31~40人が58・3%だ。子供の多様化を背景とし、補助教員の加配は増えているが、教員の数は子供の人数に準じて配置されるため少子化の昨今、減少の一途をたどっている。
また、学校の適正規模は小学校で12~18学級(1学年当たり2~3学級)、中学校で12~18学級(1学年当たり4~6学級)とされているが、小中学校とも、約半数は全体で0~11学級で学校の統廃合が進んでいないという指摘がなされた。教員数の配置も適正規模も、子供が多い時代から変わらない基準である。学級も学校も、一定程度の規模を持ち、大人数の集団指導体制をいまだに目指しているということだ。
しかし今の日本に必要な教育は、個々の特性や資質、能力を伸ばすために、少人数指導を行うことである。特に日本人に欠けている議論する能力を養うには大人数ではできない。また学習の習得に差があっても一斉に授業をすることが原則であり、習得の早い子、遅い子、共に消化不良のような学習になる。
平成15年の学習指導要領一部改正で習熟度別指導が可能となり、現在は8割以上の小中学校が、何らかの形で習熟度別指導を取り入れている。東京都は、習熟度別指導を積極的に取り入れた結果、全国学力・学習状況調査で、24年は国語Aが32位、算数Aが33位であったが、27年には、それぞれ5位と7位にまで上昇。学力向上には顕著な成果が表れている。
現在、習熟度別指導のほとんどは算数・数学・英語で行われているが、これを国語、中学では理科や社会にも広げ、また、レベル分けも細分化することで、より個々の学習状況に応じた指導が行われ、結果、学習も身に付いていく成果が見込まれる。
1学級の児童・生徒の数を減らし、学級数を増やすことは、場合によっては学校施設の整備などを行わなくてはならず、膨大な予算が必要になる。しかし、教科ごとの「細分化」であれば、教員の加配や外部人材の活用等でできるはずである。大量定年退職時代を通過している今、ベテラン教員の積極的な活用などは、教科を教えるだけでなく、学校組織の成熟のためにも有効であろう。
かつては、大人数体制の指導であっても、意欲と能力を確実に伸ばして大学などの高等教育へ進学していた。それは必ずしも全員ではなかった。今後、高等教育の無償化が実現されるのならば、高等教育への進学者は増えるであろう。しかし求められる学力や意欲は変わらないはずである。そのためには基礎・基本となる義務教育課程の小中学校の学習がきちんと定着しているかがカギとなる。そのためにも、習熟度別指導の拡大・充実を進めていくべきである。
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【プロフィル】細川珠生 ほそかわ・たまお 元東京都品川区教育委員。ラジオや雑誌でも活躍。父親は政治評論家の故細川隆一郎氏。千葉工業大理事。