「かるたの聖地」として知られる近江神宮(大津市)で11月3日に世界初の競技かるた国別対抗団体戦が開かれる。競技かるたに青春をかける女子高生の姿を描いた漫画「ちはやふる」のアニメ版が海外でも放映され、かるた人気が国外でも高まる中、競技かるたの魅力を世界に発信しようと、大津市などが企画。米国やイタリアなど7カ国のチームのほか、日本代表2チームと留学生チームの計10チームが参加して腕を競う。世界一を決める一戦を控え、外国人選手も熱のこもった練習を繰り広げている。(杉森尚貴)
「バンッ」。畳をたたく音が張り詰めた空気を切り裂く。10月下旬、大会会場の近江神宮では「大津あきのた会」に所属するかるた愛好家に交じって練習に励む留学生選手の姿があった。
留学生チームのメンバーとして出場する立命館大大学院経営学研究科2年、黄馨永(コウ・シンヨン)さん(25)もその1人だ。台湾出身で、7月にかるたを始めたばかりだが、和歌を母国語に訳したメモなどを使い、研鑽(けんさん)を積んできた。「単に文字としてひらがなを覚えるのは難しいが、和歌の意味を理解することで、情景がイメージできるようになってきた」と手応えを感じている。
競技かるたに熱中する女子高生を主人公にした漫画「ちはやふる」がアニメ化され、海外でも配信されたのがきっかけとなり、かるた人気に火が付いた。黄さんも漫画を読んで、かるたの魅力に取りつかれた。
競技かるたで読み上げられるのは小倉百人一首の和歌だが、最初の数音で取り札を判断するため、日本語が堪能ではない外国人でも楽しむことができることも普及の背景にある。
大津市によると、米国、中国、タイでは愛好会が立ち上がり、多くの国で選手が増えている。日本で開催される大会に出場して段位を取得する人も増え、レベルが上がっているという。
競技かるたの海外普及の第一人者で、10カ国以上でかるたを紹介してきた米国在住の日本人、ストーン睦美さん(56)は「読みあげられる瞬間、日本の選手が聞き取りにくい子音をすばやく感知して動き出せるので、コンマ数秒の駆け引きで有利になることもある」と指摘する。
百人一首の巻頭歌を詠んだ天智天皇を祭る近江神宮は、かるたの聖地として知られる。「ちはやふる」の舞台にもなったことで、国内外からファンが聖地巡礼に訪れている。大津市は「かるたの魅力を知ってもらい、大津への誘客のきっかけにしたい」(観光振興課)と意気込んでいる。
◇
競技かるた 鎌倉時代の歌人、藤原定家が京都・小倉山にある知人の山荘の障子に張る色紙に書きつけるため集めた100首の和歌が起源とされる。かるたの形で普及したのは江戸時代。読み上げられる百人一首の上の句と対応した下の句の字札をいかに速く取るか競う。素早く激しい動きや対戦で求められる強い精神力と体力から「畳の上の格闘技」と呼ばれる。