〈食べ物付き情報誌「東北食べる通信」を創刊した。5年前のことだ。農家や漁師などの生産者を取材した情報誌に、野菜や海産物のおまけが付く。情報誌の題材である生産者が収穫した食べ物が毎月届く異例のスタイルが耳目を集めた〉
農業や水産業といった第1次産業が衰退しています。消費地で食べ物の裏側が見えないからです。見えないものに価値を感じません。国内総生産に占める第1次産業の割合はわずか1%ちょっと。これでは生産者の生活は厳しい。だから、その1%ちょっとを可視化するんです。情報で疑似体験です。漁師の生きざまを届けます。消費者と生産者を情報でつなげることで、価値を上げたいという思いが根底にあります。
〈記念すべき第1号は宮城県石巻市のカキ漁師を取り上げた。もちろん届くのは新鮮なカキ。「食べる通信」のコンセプトが詰まった創刊号だった〉
この漁師は脱サラして、ふるさとの牡鹿半島に帰ってきました。収益や地域の雇用を考えると、本当は1個100円で売りたい。カキに対する愛情や、生産にかける手間を考えると十分にその価値はある。でもスーパーなどの流通に乗せると1個30円にしかなりません。直接消費者に呼びかけると、1個100円ができるんです。消費者は漁師の思いを知れば、価値を認めてくれます。大規模流通の中で、そうした気持ちは価格とともにそぎ落とされるのです。