日本企業の品質不正がまたも明るみに出た。大手油圧機器メーカーのKYBとその子会社が、地震の揺れなどを抑える建物の免震・制振装置に関する性能検査データを改竄(かいざん)して出荷していた。
検査で不正をしていた装置は、全国の公共施設や民間ビルなど1千カ所近くで使われている。大きな地震が起きても建物が倒壊する恐れはないというが、地震が多い日本で「安心・安全」を求める顧客に対する深刻な裏切り行為というほかない。
不正品の交換には2年近くかかるというが、それではあまりに遅い。該当する建物の安全性を検証したうえで、早急な交換に向けて全力を挙げねばならない。
不正があったのは、油の粘性を利用して地震の際に建物の揺れを抑制する装置である。同社は15年ほど前から、国の認定基準や顧客の基準から外れたデータを基準内に収めるように改竄していた。免震装置の出荷先はすべての都道府県に及んでいた。
基準に達していない場合、装置を分解して調整し直す必要があるが、納期などに追われてデータを偽っていた。あまりにも杜撰(ずさん)な態勢にあきれるばかりだ。歴代の検査員に不正が引き継がれており、組織的な不正の指示がなかったかを含めて厳正な調査が必要だ。
3年前には東洋ゴム工業で免震ゴムなどの製品不正が発覚している。KYBはその後も免震分野で不正を続けていたことになる。KYBの主力製品は自動車の緩衝装置で免震・制振装置に関する検査を現場任せにしていたというが、企業全体の法令順守意識が欠如していたのは間違いない。
不正発覚後の対応にも問題がある。同社は当初、出荷先の公表を見送り、そのために混乱を広げる事態となった。19日になってようやく財務省本庁舎や大阪府庁本館など70件の建物名を公表したものの、建物の所有者や利用者の不安は大きい。安全性の検証と丁寧な説明が欠かせない。
不正な装置が使われている建物の中には、東京五輪や観光などの施設も含まれる。全国では老朽化ビルの耐震工事も進んでいる。今回の不祥事が与えた影響は極めて大きい。国土交通省は他社の免震装置などについても安全点検を進めなければならない。それを徹底して国民の「安心・安全」の確保に努めてほしい。