虎番疾風録

仰天ロッテ山本監督決定 其の一39

電撃的にロッテの監督に就任した山本氏
電撃的にロッテの監督に就任した山本氏

虎番疾風録 其の一38

阪神の「監督問題」も一件落着。久々にのんびりとした気分に浸っていた。

各球団の新監督も次々に決まり、近鉄は西本野球を継承する関口清治コーチ(55)が昇格。西武は広岡達朗(49)と5年契約を結び、根本陸夫が管理部長としてフロントに入った。横浜大洋は関根潤三(54)。まだ、決まっていないのはロッテだけだった。〈所詮、東京のチームや〉という油断があった。

11月13日の夕方、編集局に衝撃が走った。「ええ、ほんまかいな!」。東京からの連絡によると、ロッテの監督に近鉄の山本一義(かずよし)コーチ(43)の就任が決定。午後7時から東京・錦糸町のロッテ会館で就任発表が行われる―というのである。

「こんな大きな動きを、誰も知らんかったんか!」と怒鳴るデスク。同い年の近鉄担当・山本豊とあわてて編集局を飛び出した。

ロッテは10月19日に山内一弘(かずひろ)監督があと1年の契約期間を残して退団した。この時期、在野の監督候補たちはほとんどが就職先を決めている。それでもロッテ本社はフロントを急がせ「10人の候補者リスト」を作り、片っ端から交渉を開始した。野村克也、土橋正幸、豊田泰光―と次々に断られ、OBの中では金田正一、張本勲、醍醐猛夫らの名前が挙がったという。

その中で本社が本命に推したのが有藤通世(みちよ)(当時34歳)の兼任監督案。だが、重光武雄オーナーが「あと3年、プレーヤーとして専念させよう」とストップをかけた。窮した本社上層部は、当時、パ・リーグの「ドン」といわれた元南海監督の鶴岡一人へ相談。その鶴岡が推薦したのが山本だった。

一番驚いたのは近鉄の選手たちだ。この日、藤井寺球場内にある合宿所「球友寮」では6、7人の若手が夕食を食べていると、午後6時過ぎ、テレビのニュース番組に突然、山本コーチの顔が映し出された。

「なんで山本コーチが?」とみんなが箸を止めた。『ロッテの新監督に山本一義氏の就任が決まりました』のアナウンスに「えええっ!」と寮内は大騒ぎ。「今朝、大事な用があるからと出かけていったけど、大事過ぎるやんか」。当時、山本コーチは単身で寮住まいをしていた。

日生球場内にある球団事務所では山崎球団代表が担当記者たちに取り囲まれていた。

「ごく最近ですがロッテから話がありました。ウチとしても手放したくはないんですが、本人にとって非常に良いチャンス。本人が望むなら、出世していくんだし、喜んで送り出そうと―ということになりました」

球団事務所の壁には来年のカレンダーが飾られている。1月は関口監督を囲んだ1軍首脳陣。もちろん、山本コーチの姿もあった。(敬称略)

虎番疾風録 其の一40

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