がん患者らに「祈りのたて琴」 奈良の女性が関西で唯一活動を継承

車いすの入院患者の前でハープを奏でる早野潤子さん=大阪市東淀川区の淀川キリスト教病院
車いすの入院患者の前でハープを奏でる早野潤子さん=大阪市東淀川区の淀川キリスト教病院

 死にゆく人のベッドサイドでハープを奏でるボランティア活動「リラ・プレカリア(祈りのたて琴)」。国内でのボランティア養成講座は今年で終わり、関西では唯一、奈良市の早野潤子さん(51)が活動を受け継いだ。研修中に父のみとりを経験した早野さんは、どんな患者にもこう伝えられると信じている。「あなたは独りじゃない」(小野木康雄)

 淀川キリスト教病院(大阪市東淀川区)のホスピス緩和ケア病棟。毎週火曜の「お茶会」で、早野さんは月1回、入院患者らを前にハープを奏でる。

 「リラックスしてお聞きください。もしよければ、目を閉じて」

 患者たちは音楽を楽しみ、病院付きの牧師(チャプレン)が朗読する聖書の言葉に耳を傾ける。

 チャプレンの藤井理恵さん(59)は「がんと向き合う時間の長い患者さんが、癒やしの音楽で穏やかな気持ちになってもらえれば」と、早野さんの演奏に信頼を寄せる。早野さんは「患者さんの呼吸に耳を澄ませ、息を合わせて無心に歌い奏でる。そこに私という主体はありません」。

 リラ・プレカリアは、プロテスタント系の日本福音ルーテル社団が今年3月まで研修講座を開いていた。聖歌や子守歌の演奏に加え、聖書の詩編に関する講義、カウンセリングの訓練などが2年間続く。早野さんは28年3月まで毎週、夜行バスで上京し講義を受けた。がんで自宅療養する父の面倒を見るためだった。

 早野さんにとって、父はハープを奏でた最初の患者だった。「いい音だな。ゆっくり眠れそうだ」。そう言われたこともあったが、27年夏、父から思いがけない言葉を聞いた。

 「もうハープはいらん」

 父は娘を思いやり、我慢して演奏を聞いてくれていただけだったのだ。

 「この人はいつも与えよう、与えようとする。ただそばに来てくれるだけでいいのに」。それが、最期の言葉になった。

 苦しむ人に「何かをしてあげる」ことは、独りよがりで押しつけになってしまう。音楽によって「共に生きている」と心を通わせることが大切ではないか。そう学んだ。

 患者が人生を締めくくる貴重な時間に立ち合えることは、光栄なことだと思う。「私はまだまだ未熟者。生涯をかけて、父の言葉に応えていきたい」