話の肖像画

アーティスト・中谷芙二子(85)(1)

(桐原正道撮影)
(桐原正道撮影)

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大阪万博で「霧の彫刻」

大変立派な賞をいただくことになり、びっくりしました。光栄なことですが、一方では責任が重すぎると。悩んでいたら、ある友人に「中谷さんがもらえば若い人たちの大きな励みになる」と言われたんです。「普通の人でも努力すれば、こんな立派な賞がもらえるんだ」って(笑)。

〈第30回高松宮殿下記念世界文化賞(彫刻部門)の受賞が決まった。芸術と科学を結びつけた「霧の彫刻」で国際的に知られる。霧のアーティストは、大阪万博(昭和45年)のペプシ館で誕生した〉

当時、私は技術者と芸術家の協働を推進する実験グループ「E.A.T.」に参加していました。技術者のビリー・クルーヴァー、画家のロバート・ラウシェンバーグ(第10回世界文化賞受賞者)らによりニューヨークで結成されたグループで、ペプシ館のデザインを委託されたのです。建物は既に設計済みでしたが、屋根の形が気に入らないからドーム全体を人工霧の雲ですっぽり包もうというアイデアが「E.A.T.」側から起こりました。

ところが、霧をつくる技術がなかなか見つからない。父が気象関係の科学者ということもあり、私が実現のためのリサーチを担当することになったのです。

高度成長まっしぐらの時代。「飛行機が離着陸できない」「運転の邪魔になる」と、世間は霧を人の視界をさえぎるものとして悪者扱いしていた。そのイメージを変えたいと思った。人が中に入って遊べる霧、人が自然や環境とやりとりできる霧が欲しかった。そのためにはケミカル(化学的)な霧ではなく純粋な水、飲める水を使った霧でなければならない。

専門家の計算によると、自然の霧と同じサイズの微粒子に水を砕いて、噴射する技術が見つかれば可能性はあるとの結論でした。屋外でそれも大量に霧を発生させるには、他の方法(冷却法やスチームなど)では膨大なエネルギーと費用がかかり、実行は不可能。エコな水霧は将来、有望な技術かもしれない。「人類の進歩と調和」を掲げる万博なのだからと、日本で開発してくれるメーカーを探しましたが…。あきらめかけた矢先、カリフォルニアの小さな研究所が快諾してくれた。その時に開発された微粒子ノズルは、50年後の今も現役です。

〈微粒子ノズル群と高圧ポンプで生み出される水霧の雲は、ペプシ館のドームの上にたなびき、無風時にはパビリオンをすっぽりと包んだ。初めての「霧の彫刻」だった〉 (聞き手 黒沢綾子)

【プロフィル】中谷芙二子

なかや・ふじこ 昭和8年、札幌市生まれ。米ノースウェスタン大学美術科卒。絵画制作を経て、技術と芸術による実験グループ「E.A.T.」に参加。環境彫刻、インスタレーション、パフォーマンス、公園など80を超える「霧」の作品を展開してきた。メディアアートの礎を築いた先駆者として知られる。父は世界で初めて人工雪を作った中谷宇吉郎氏。

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