書評

麗澤大客員教授、西岡力が読む『日本占領と「敗戦革命」の危機』江崎道朗著 ギリギリで危機防いだドラマ

『日本占領と「敗戦革命」の危機』
『日本占領と「敗戦革命」の危機』

 本書を読むと、昭和20年の終戦とその後の占領時代に共産革命が起きる寸前であり、それを昭和天皇や少数の保守自由主義者らが占領軍の反共勢力と手を組んでギリギリの所で防いだドラマがよく分かる。しかし、この事実を保守派を含む多くの日本人が知らない。本書を書いてくれた江崎氏に心から感謝したい。

 スターリンは米国や日本をはじめとする世界各国の政府、学界、言論界などに工作員を浸透させ、資本主義国同士を戦争させ、敗戦した国で意図的に経済的窮乏を作り出して社会を混乱させ、それを利用して共産党政権を樹立するという「敗戦革命」戦略を立てていた。そのことを指摘する著作は最近多く出ている。

 本書の特徴はソ連の「敗戦革命」戦略に対してわが国がどのように対応したのかを描写していることだ。

 大きく分けて終戦時のわが国には(1)右翼全体主義勢力、(2)保守自由主義勢力、(3)共産革命勢力が並存していた。マッカーサーが率いる占領軍は当初、浸透していたソ連の工作員の影響で(3)を一番信頼し、(1)だけでなく(2)をも日本「民主化」の障害とみなしていたが、(2)の努力により(3)を排除する方向に占領政策を転換していった。

 日本を愛する保守自由主義の価値観からある時代の全体像を描写しているという意味で、本書はまさに江崎史観と言ってもいい。東京裁判史観を否定しようとする日本の保守派は必ず読むべき名著だ。

 私は歴史認識問題を考える中で、昭和天皇が昭和21年1月に出された新日本建設の詔勅に行き当たった。戦犯として裁かれる危険性があったあの時点で「朕ト爾等国民トノ間ノ紐帯ハ、(略)日本国民ヲ以テ他ノ民族ニ優越セル民族ニシテ、延テ世界ヲ支配スベキ運命ヲ有ストノ架空ナル観念ニ基クモノニモ非ズ」と断言されて、日本が世界征服を目指していたとするポツダム宣言を否定されていることを知り、強い感動を覚えた。

 本書で江崎氏は同詔勅についてかなり長く論じているがこの部分の意味について触れていないことが少し残念だった。(PHP新書・1200円+税)

 評・西岡力(麗澤大学客員教授)

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