矢板明夫の中国点描

捨てられる?地下教会信者に不安

北京郊外にあるキリスト教カトリックの「地下教会」のミサを取材したのは2014年の春だった。尾行者がいないことを確認しながら、案内役と一緒に入ったのは古びた団地の一室。普通の民家との唯一の違いは、リビングの壁に、白い紙を接着剤で貼った大きな十字架があることだった。

集まった約20人の信者は10代から70代。女性が大半を占める。警察に気づかれることを警戒して、日中でも厚いカーテンを閉め、賛美歌を合唱する際に、口パクに近い小さな声しか出さず、耳を澄ませても歌詞が聞き取れないほどだった。

印象的だったのは、神父役の知識人風の男性が説教したとき、法王フランシスコが同年夏、韓国を訪問する予定というニュースを伝えたときの信者の反応だった。突然、拍手がわき起こり、「法王さまがまもなく私たちの近くに来る」と涙ぐむ女性もいた。法王は、当局の厳しい弾圧を受けている中国の地下教会の信者たちにとって、最大の心のよりどころになっていることを強く感じさせられた。

無神論を唱える共産党一党独裁体制下の中国では、すべての宗教は国務院宗教事務局の指導と監督を受けなければならない。共産党による信仰の介入を嫌う信者たちは、政府に認められていない地下教会に集まるが、当局からは「邪教の信者」と見なされ、取り締まりの対象となる。

中国政府公認のカトリック信者は約600万人だが、地下教会の信者はその3倍以上の2千万人とされる(宗教問題に詳しい中国人記者)。改革開放が始まった直後の1980年代と90年代は、中国当局は欧米から投資を呼び込むために、地下教会を届け出制にするなど、一時キリスト教に対する規制を緩めたが、その後、締め付けを再び強化した。