それまで3自衛隊は共通の有事シナリオに基づく防衛力整備や運用指針に関する検討を行っていなかった。そのため3自衛隊ごとに脅威の分析が異なり、統合運用に適さない装備を導入する弊害があった。
対中シナリオ
最初の統合防衛戦略の策定作業で極秘に練られた有事シナリオのうち、対中有事に関するものは3通りあるとされる。(1)尖閣(2)尖閣と石垣・宮古両島(3)それらに加えて台湾-への侵攻の3種類で、次のようなシナリオを念頭に置いている。
《尖閣侵攻》
中国海警局の船が尖閣周辺で海上保安庁の巡視船と「偶発的」に衝突。これをきっかけに中国は海警局の船を大挙送り込み、空母など海軍艦艇も威圧し巡視船は後退を余儀なくされる。
海保の増援船艇や海自艦艇が展開する前に中国側は空挺(くうてい)部隊などを尖閣に上陸させる。偶発を装った意図的な衝突から一気に尖閣を奪取する事態だ。
《尖閣と石垣・宮古 同時侵攻》
尖閣のみならず、石垣島と宮古島にも同時か波状的に侵攻してくる。「中国は尖閣と石垣・宮古をひとつの戦域ととらえている」(自衛隊幹部)ためだ。
中国側は海軍艦艇を集結させ周辺海域を封鎖。戦闘機も宮古島にある空自のレーダーサイトをミサイル攻撃し、混乱に乗じ潜入した特殊部隊が宮古空港と石垣空港を占拠する。空港を奪えば自衛隊は増援部隊や装備・物資を輸送する拠点が失われてしまう。