世界文化賞・歴代の巨匠

映画監督、黒澤明さん (7)相手の考えを押してやる

世界文化賞の演劇・映像部門第4回受賞者、映画監督の黒澤明さん(斎藤良雄撮影)
世界文化賞の演劇・映像部門第4回受賞者、映画監督の黒澤明さん(斎藤良雄撮影)

みな違う人間だから

 --監督は映画作りに関してはご自分の考えを頑強に貫かれるといわれていますが。

 黒澤 いやいや、そんなわけにはいかないですよ。

 --そうなんですか。

 黒澤 例えば、ある俳優さんがこういう具合にやろうと考えてきたことを、僕がこうと、いくら引っ張っても、自分のところまでは来ないですよ。真ん中までしか来ない。山さん(山本嘉次郎監督)が言われた。「そういうときは相手が考えてきたことを、じゃ、それだったらこうしてみろと押してやれ」と。「そうすれば面白いものができるよ。自分のところへ引っ張ってくるな」と。俳優さんがこうやろうとしたら、それだったらこうしたらどうっていう具合にしてやったらいいんでね。

 --なるほど。

 黒澤 自分が考えているところまでは絶対に来ない。真ん中までしか来ない。それを逆に向こうに押してやればね…。そういうぐらいの気持ちになんなきゃダメだぞって山さんに言われてたんですけれども、そうなんですよ。みなそれぞれ違う人間ですからね。それをうまくコントロールしてね。全体のバランスもありますから。あるところは絶対こうしろと言うこともありますけれども。

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