東京電力福島第1原発事故の影響で、一昨年まで一部が帰還困難区域になっていた葛尾村で、震災以来7年半ぶりに酪農業が再開される。「佐久間牧場」(同村落合)に13日、北海道から乳牛が到着、将来の「300頭飼育、県内牛乳出荷量ナンバー1」の目標に向けて営農が始まった。(内田優作)
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この日、佐久間哲次さん(42)の牧場に入ったのは、北海道音更町の家畜市場で買い付けた乳牛8頭。いずれも1カ月半~2カ月後の出産を控え、状態はよい。午後2時過ぎに牛が牧場に着くと、「牛をひっぱるのは震災前以来だな」と佐久間さん。7年半ぶりに牧場に牛がいる光景に、「浦島太郎になった感じ」と語った。
佐久間牧場はかつて、約80頭の乳牛を飼育。県内のJA全農グループで最多の牛乳出荷量を誇った。しかし、東日本大震災が起き、原発事故に見舞われた。佐久間さんは県内や茨城県などを転々、牛を手放し、営農を中止せざるを得なかった。「やってきたことの自信を失った」と振り返る。
同村の避難指示一部解除を受け、今年4月に帰村、牧場再開への挑戦が始まった。まず、荒れた牛舎や、長く使われなかった搾乳機を整備し、飼料となる牧草やトウモロコシを植えた。こうした熱意に農林中央金庫の融資が決まった。
北海道での買い付け直前の今月6日。北海道で地震が起きた。「検査や出荷のスケジュールに間に合わなくなれば、待ってくれている人に申し訳がない」と頭によぎったが、市場は予定通り11日に開かれ、福島にも無事に輸送できた。
県産品には放射性物質をめぐる風評被害が根強い。佐久間牧場では今後、週1回の生乳検査を実施、6週連続で問題がないことが判明して初めて出荷する。順調に進めば、12月末には再開できそうだという。
目標は5年後の300頭飼育と、震災前の出荷量を取り戻すこと。
「まだ道は険しいが、みんなに美味しいと言ってもらえる牛乳を作りたい」。来月にはさらに62頭がやってくる予定だ。