水産研究・教育機構(横浜市)が、九州のウナギ業者と連携し、人工孵化(ふか)したウナギの稚魚を、成魚まで養殖する大規模実験に乗り出した。生育コストなどの課題が解決できれば、絶滅が心配されるニホンウナギの完全養殖に道を開き、天然ウナギの保護にもつながると期待される。(谷田智恒)
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実験には、鹿児島県志布志市で専門店「うなぎの駅」を経営する山田水産(大分県佐伯市、山田陽一社長)と、鹿児島鰻(鹿児島県大崎町、斎藤雅之社長)が協力する。
同機構のウナギ種苗量産研究センター南伊豆庁舎(静岡県南伊豆町)で育てた稚魚「シラスウナギ」計300匹を、2社が鹿児島県に所有する養鰻場に提供し、成魚まで育てる。民間業者が参加するウナギの完全養殖実験は、全国初という。
実験は1年程度かけ、人工稚魚の生存率や、天然稚魚との成長の違いなどを検証する。また、養殖コストが採算に合うかも調べる。
同機構の担当者は「人工シラスウナギの生産技術は、まだ開発段階にある。今回の民間業者による飼育試験により、ウナギの完全養殖の実用化に有益な情報が得られることが期待される」とコメントした。
ニホンウナギは、太平洋のマリアナ沖で産卵するとみられる。透明な柳の葉のような幼生「レプトセファルス」が、黒潮に乗って日本の河口までたどり着き、小さなウナギに変身したのがシラスウナギだ。養殖ウナギは、野生のシラスウナギを取り、業者が育てる。
ただ、シラスウナギの減少が顕著で、ニホンウナギは野生での絶滅の危険性が高い種とされた。
水産研究・教育機構は、前身の水産総合研究センター時代から、ウナギの完全養殖の研究に取り組む。平成14年には、卵から育てたレプトセファルスを、シラスウナギまで成長させることに、世界で初めて成功した。22年には人工生産ウナギから、次の世代を誕生させる「完全養殖」にも成功した。
ただ、食用のウナギとして流通させるには、孵化・成長させたシラスウナギを、天然のものと同様に養殖池で成魚まで育てなければならない。また、コスト低減や生産量の安定化など、課題も多い。
同機構は、全日本持続的養鰻機構(一般社団法人)を介して、こうした実験に協力する民間業者を募った。
協力企業の1社、山田水産は、国内トップクラスのウナギ養殖規模を誇る。鹿児島・大隅地区に、5カ所で計10万3千平方メートルの養鰻場を持つ。グループ会社を加え、年間約1千トンのウナギを育てる。
ウナギ養殖では一般的に、病気予防などの薬品が使われる。同社は17年、日本で初めてウナギの無投薬養殖に取り組んだ。半数近くのウナギを失うこともあったが、研究を続け、稚魚から成魚までの完全無投薬養殖に成功したという。
山田水産専務の山田信太郎氏は「かば焼きは、日本の大切な食文化だ。これまでの研究で、不可能とされてきたウナギの人工孵化にたどりついた。これに、われわれ養鰻業の長年のノウハウを合わせ、人工孵化ウナギの量産化を目指す。オール・ジャパン態勢で挑みたい」と述べた。