〈東京のクラブでダンスを披露するゴーゴーボーイをしていたとき、映画「薔薇(ばら)の葬列」(昭和44年、松本俊夫監督)の主役にスカウトされる〉
東京に出てきて、全然知らない土地で何をしても自由だと思っていました。先しか見ていない。夢しかないんだもん。だから「映画やらない?」と言われて、「なんだか面白そう」くらいの軽い気持ちで了承しました。お化粧をして、髪の毛をブリーチ(脱色)して、おかっぱヘアにして、松本監督の言う通りにラブシーンをやったり、撮影の合間に映画の宣伝や雑誌の取材を受けたりしました。画面の中の自分は、自分ではないみたいでしたね。
〈「薔薇の葬列」ではゲイバーの売れっ子「エディ」を演じた。「ビジュアル系」も「オネエ」という言葉もない時代、金髪に化粧の美少年には大きな反響があった。同年には「夜と朝のあいだに」で歌手デビューし、大ヒット。「第11回日本レコード大賞」で最優秀新人賞を受賞した〉
考える間もなく、周囲の大人が決めていったんです。あの時代は(男性が美しく着飾る)ピーコック革命とか、(英ロック歌手の)デビッド・ボウイとか、男の方がきれいで当たり前という概念が出始めた時代。それで、女と男の間という意味も込めて、作詞家のなかにし礼さんが「夜と朝のあいだに」を書いてくださいました。ショートカットでかわいい女の子のような見た目なのに、低い声で歌うから「なんじゃこりゃあ」ってみんな驚いて、大ヒットしたんです。
〈男女の性差を飛び越えてデビューしたことで、好奇の目にさらされることにもなった〉