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滋賀県立近代美術館(大津市)が、学芸員と収蔵品の「活用」に頭を悩ませている。平成32年春のリニューアルに向け昨春から3年間の予定で休館したが、7月に突如計画が白紙となり、休館が4年以上続く見通しになったためだ。館外活動が続く学芸員のモチベーション維持、約1800点の収蔵品の預け先、休館中の展示…。美術館の苦悩は深い。(川瀬充久)
「博士」風に変装し出張講座
「『ムンクの叫び』の顔を他のものに変えると面白いですよ」
8月中旬、県内の学童保育施設。白衣をまとい、白髪のカツラに鼻めがねをかけて「博士」風に変装した男性が、子供たちに芸術作品を解説していた。男性は同館主任学芸員の平田健生さん(56)。同館の出張講座だ。
出張講座は「美術館に足を運ぶ機会のない人も芸術とふれ合う大切な活動」(同館)と位置づけ、休館前から行っている。だが、今年度は2年前の約8倍にあたる162回を予定。実に2日に1回のペースで、学芸員10人の主要業務と化している。
休館による閉鎖で学芸員の環境は変わった。職場は県庁近くの合同庁舎の一室に。職場に美術品はない。業務の中核である作品展示や解説の機会は激減した。
「若い学芸員には気の毒な面も確かにある」。出張講座用の資料が入った大きなトランクを引きながら、平田さんはこぼした。
預け先確保に奔走
25年に県が策定した同館リニューアル計画は、近代美術に加え、美術教育を受けていない人の作品「アール・ブリュット」を充実させるなど「美の滋賀の拠点」を目指すとしていた。整備費の上限は47億円に設定。だが、昨年8月の入札では入札価格がいずれも予定価格を上回り、不成立に終わる。