石野伸子の読み直し浪花女

竹林の隠者・富士正晴(7)引きこもる一兵卒 童貞、ビンタ、中国人ニヒリズム…戦後「ベンチャラ人種」「サーヴィス精神」に疲れた

 「徴用老人列伝」には、その戦場の老人たちへの共感がユーモラスに描かれている。だからこそ、戦後の威勢のいいレジスタンスや政治運動などに容易に腰を上げなかったのだ。なのに、時代は何やら騒々しい。

 「兵卒としての生活はほとんど小説に書いてしまって、もう書くこともないが、その小説の中に書かれたわたしが、戦後もつづいて生きていて、年齢でいえば三十代、四十代を経て、今は五十代の半ばにおり、戦後の生活も一向にぱっとしたものでなく(略)軍隊にいた時同様、自分が所属している軍隊、国家といったものがどのような方向に進もうとしているのか、本当のところは余りはっきりは判らず、とにかく生きてやるぞといった体であるみたいだ」(『わたしの戦後』)

 生き方の底流にある諦観と高まる世の中への違和感。隠者となった富士は何を求めていったのか。   =(8)に続く

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