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「伝え」ても「伝わらない」避難情報。想定外の豪雨を受けて愛媛県の2カ所のダムで実施された緊急放流には、「伝わらない」情報という課題が凝縮していた。
「ダムが今までにない量を放流する。川が氾濫する危険がある」
7月7日午前6時前。同県西予(せいよ)市の野村町地区に住む畳店店主、小玉恵二さん(59)は、消防団員から市内にある野村ダムが放流するとの情報を受け、避難するよう促された。
しかし。「道路が冠水するくらいかな、程度に思っていた」。小玉さんは当時をこう振り返る。
自宅の近くでは母、ユリ子さん(81)が1人暮らしをしていた。妻の由紀さん(59)が様子を見に行くと、ユリ子さんは飼い猫を一緒に連れて行くためのケージを探していた。
同6時40分ごろ、いったん自宅に戻った由紀さんを伴い、小玉さんがユリ子さんを迎えに行くため軽トラックに乗り込んだ瞬間、急に濁流が押し寄せ、車体が浮き上がった。あわてて車から降り、夫婦で近くの民家へ飛び込んだが、すぐに2階まで浸水。屋根の上で救助を待つ間、集落は瞬く間に水没していった。
3時間後。水が引くのを待ってユリ子さん宅に駆けつけたが、ユリ子さんは既に冷たくなっていた。「町が沈むレベルの放水だと言ってくれていれば引っ張ってでも連れてきたのに…」。由紀さんは後悔を隠しきれない。