男鹿市の「男鹿桜島リゾートHOTELきららか」が9月末で休館する。日本海を眺望できる人気の温泉宿だったが「人手不足で十分なサービスが提供できない」との理由だ。県とJR東日本秋田支社は秋の大型観光キャンペーンを9月1日から11月30日まで行うが、男鹿市はイチ押しスポット。県内の人手不足は深刻で、県観光振興課によると、「部屋が空いているのに泊まれない宿もある」という。 (藤沢志穂子)
■キャンペーンに暗雲
「きららか」は県が昭和54年に開業した旧男鹿桜島荘を、劇団や宿泊施設を運営するわらび座(仙北市)が取得し、平成16年にオープンした。客室23室で収容人員70人。夏季は週末を中心に予約困難となる人気だったが、冬季は客足が遠のき、通年で調理師やフロントの人材を確保できなくなった。施設の老朽化もあり7月に休館を決めた。
県内の宿泊施設は5~10月の繁忙期の経営は順調でも、観光客の減る冬季の維持は難しく、閉鎖したり、陣容を縮小する宿も少なくない。そのため「調理師らは、通年で仕事ができる地域へ移籍していく」(県北の旅館経営者)という。加えて給仕や仲居などの現場スタッフも「仕事は夜遅く朝早いなど、きつく集まらない」(同)。県内の有効求人倍率は6月、旅館も含むサービス業で調理が2・15倍、接客・給仕が5・64倍と高水準だった。
一方、秋の観光キャンペーンは昨春に続き、県とJR東日本が組んで秋田を重点販売地域とする企画で、自然や食文化、温泉をPRし、秋田犬とふれあう機会も設ける。県外から外国人を含む多くの観光客を誘致したい意向で、JR秋田支社は秋田内陸縦貫鉄道(北秋田市)や津軽鉄道(青森県五所川原市)など民鉄4社と連携協定も締結した。北東北全域、函館など北海道への誘客も視野に置く。だが慢性的な人手不足が影を落とす。
■空いていても断る
人手不足はまず、1人客など「効率の悪い客の宿泊を断る」形で表面化する。県央のある旅館は「家族経営でスタッフが少なく断っている」、別の旅館は「特に女性1人は『訳あり』とみなされがちで、事情を聴いて判断する」とそれぞれ話す。県南の老舗旅館は1人用の部屋を1日3室確保、それ以上は別の部屋が空いていても断る。「食事は広間で全てのお客さまが一緒。家族連れが多い中で1人は気の毒」と考える。
県観光振興課の担当者は「人手不足の対応は、施設の改修や、食事を部屋から食堂に切り替えるなど経営の効率化を図るしかない」と話すが、その余裕のない施設も多い。県やJRの支援による、地域ぐるみの対応が必要となりそうだ。