近代建築は文化財としての評価を受ける作品も徐々に増えている一方、老朽化の名の下、姿を消す例も後を絶たない。そんな中、京都工芸繊維大教授の松隈洋さん(60)は長年にわたり近代建築の保存に取り組んできた建築史家の一人だ。職場で受けたバッシング、国との係争…数々の困難に直面しながらも戦い続けるのは、建築に携わった人々への深い敬意であり、その思いを次代に継承するという強い使命感だった。(渡部圭介)
--ここ数年、各地で近代建築を見て回るツアーが開催され好評を博すなど、近代建築をめぐる環境は変わった気がします
松隈 隔世の感がありますね。例えば日土(ひづち)小学校(愛媛県八幡浜市)は重要文化財に指定され、今では普通に素晴らしいと評価され、世界中から人々が見に来るようになりました。でも、指定前の二十数年前に見に行ったときの姿と、同じものとは思えないんですよ。
--何が違うのでしょうか
松隈 世の中から忘れられていた小学校で、子供たちが楽しそうに遊んでいる。価値はあるけど、価値を意識せずに使っている。その幸せ感が良かったんですね。近代建築というのは、日常に当たり前にあるようにあるからすてきだと思っています。
--近代建築の見方や評価は難しい