中でも最も重要なのは、「実情を知りながらロシアの情報工作に参加したアメリカ人はいなかった」という点であろう。記者会見でも副長官はこの点を強調していた。この言葉をそのままに受け取れば、当然「ロシア側とトランプ陣営が共謀した選挙活動はなかった」という結論になる。というか、それ以外の結論を下すことは不可能である。
モラー特別検察官の任務は「トランプ陣営がロシア政府と共謀して、大統領選挙の結果を歪めたのではないか」という疑惑の捜査だが、「そういった事実はなかった」ということが起訴を通じて明らかになったのである。「ロシア・ゲート」なるものが全く存在しないことを、モラー特別検察官とローゼンスタイン副長官が証明してみせたのだから、皮肉な結果である。ちなみにローゼンスタイン副長官は、コミーFBI長官などと共に、トランプの大統領選当選を妨害しようとした司法省高官の一人であり、モラー特別検察官と共謀していると批判されている。要するに、「ロシア・ゲート」は最早、完全に終わったのである。
勿論、今後、別の事実が発見され、新たなる人物が起訴されるという天文学的な可能性は存在する。しかし、それ以上の可能性を議論することは神学論争になってしまうだろう。
反撃に出たトランプ陣営
ロシア・ゲートが存在しないことは明らかになっても、モラー特別検察官などはトランプ大統領の個人弁護士マイケル・コーヘン氏に嫌がらせ的な捜査をして、トランプへの抵抗を続けている。しかし最早、勝負あったというべきだろう。
トランプ陣営は反転攻勢に出ている。2018年5月21日、トランプ大統領は、自らの陣営が2016年の大統領選挙で、FBIによって、政治目的のために情報監視されていたかどうか調査するよう司法省に正式に命じた。焦点は、オバマ政権関係者がそのような要請をFBIに行なったかどうかである。状況を考えれば、オバマ大統領自身がトランプ陣営へのスパイ行為を命じた可能性が疑われる。もしセッションズ司法長官やローゼンスタイン副長官が大統領命令に従わなかったら、トランプは彼らを更迭する事が出来る。
6月14日、司法省のマイケル・ホロウィッツ監察官はヒラリー・クリントンのメール問題で、報告書を提出した。報告書でコミーFBI長官やリンチ司法長官の判断ミスを指摘したが、違法行為はなかったと結論づけたのだが、早速、翌15日、トランプは「ホロウィッツ監察官の捜査は完全に偏っており、結論は間違っている」と批判した。監察官自身は司法省の役人であり、司法省やFBIを弁護する立場に終始している。
それにしても、ウォーターゲート事件を上回るこれだけの大事件を一切、報道しない日本のマスコミとは一体何なのだろうか?
■ふじい・げんき 昭和27年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。米クレアモント大学大学院を経て、ハーバード大学大学院博士課程修了。著書に『日米対等』(祥伝社)
■8月号 主なメニュー■
【ここでしか読めない米朝首脳会談の真実】
★在韓米軍撤退の現実味 対馬が38度線に ジャーナリスト 櫻井よしこ×自民党副総裁 高村正彦×杏林大学名誉教授 田久保忠衛×福井県立大学教授 島田洋一
★今、アメリカ頼りを超えて 日本は自主的に動き出す 元駐米大使 加藤良三
★米朝衝突は米中衝突にシフトした 筑波大学教授 古田博司
★独裁者裏切りの歴史 金正恩を第2のヒトラーにするな 国家基本問題研究所主任研究員 湯浅博
★かくして北朝鮮の人民たちは苦しみ続ける 龍谷大学教授 李相哲
★米朝の直接ディールに怯える習近平 評論家 石平
★日本は財布代わりになってはならない 産経新聞文化部編集委員 喜多由浩
★漂着船再検証! 今も北朝鮮からの潜入は続いている 東海大学教授 山田吉彦
× × ×
★日本のマスコミが報じない トランプ・ロシア疑惑の真実 国際政治学者 藤井厳喜
× × ×
★作家 百田尚樹 「働き方改革」はどこかおかしい ~日本のために働いた日本人たちに学べ
× × ×
★小泉純一郎研究 なぜ元首相は反逆したのか 政治評論家 屋山太郎
★進次郎は父親を超えられない 日本維新の会衆議院議員 足立康史
★日本の元祖ポピュリストの劣化 その功罪と大衆の反逆 皇學館大学准教授 遠藤司
★小泉流脱原発論の耐えきれない軽さ 産経新聞論説委員 長辻象平
× × ×
★前愛媛県知事 加戸守行 加計問題の無実全て語る 獣医学部は愛媛県の悲願
★アナウンサー鈴木史朗が語る 「南京大虐殺」と父の無実
★シリーズ日本虚人列伝 姜尚中 評論家 三浦小太郎
★もし尖閣で負傷者が出ても… 自衛隊医療の恐るべき貧弱 杏林大学教授 山口芳裕
★テレビ局の番組考査笑える実態 本当は怖い言論排除のシステム 放送法遵守を求める視聴者の会事務局長 上念司
★山口メンバーの「Rの法則」だけじゃない NHKのEテレは実は、問題だらけ 元外交官・元衆議院議員 村上政俊
★文系学問偏向ランキング 「ジェンダー学」は単なる政治運動? 筑波大学准教授 掛谷英紀
★日大アメフト報道の短慮 スポーツに潜む暴力を否定できるか 評論家 小浜逸郎
× × ×
【追悼・ジャーナリスト惠谷治】
・ともに拉致問題で闘った勇士よ 麗澤大学客員教授 西岡力
「政治的秘境」に挑んだ原点 産経新聞編集委員 久保田るり子
※この記事は、月刊「正論8月号」から転載しました。ご購入はこちらへ。