JR大阪駅北側の再開発地区「うめきた2期」(大阪市北区、約16ヘクタール)の開発事業者が決定し、2024年夏のまち開きを目指して段取りが整った。1期(約7ヘクタール)では大型複合施設「グランフロント大阪」が大阪・梅田の人の流れを劇的に変えた。20年3月以降に着工する2期では、都市公園を中心に健康医療施設、コンベンション施設などを配置する計画で、これまでにない都市機能を創出する。東京一極集中が続く中、うめきたは大阪復権の起爆剤となるか。
再開発の変遷
都市の姿を変貌させる再開発事業は、時代とともにその狙いや役割が変遷してきた。
1970~90年代にかけて浄水場跡地を再開発した東京・西新宿(新宿区)には、巨大な高層ビル群が姿を現した。しかし都市機能の面では、単なるビジネス街にとどまっていた。
これに対し94年に開業した恵比寿ガーデンプレイス(東京都渋谷区・目黒区、約8・2ヘクタール)は、オフィス、ホテル、百貨店などの商業施設、集合住宅、美術館、広場などを一体的に整備。再開発の新しいスタイルを提示して注目を集めた。
2003年に開業した六本木ヒルズ(東京都港区、約11ヘクタール)は、アート(芸術)とインテリジェンス(知性)が融合する「文化都心」を標榜し、情報発信機能を大幅に強化した。会員制の交流クラブや、会議・イベントスペース「アカデミーヒルズ」を備えるほか、テレビ局やラジオ局も入居・参画して情報発信に貢献。東京の文化、芸術、流行に多大な影響を及ぼしてきた。
大阪では赤字垂れ流しも
大阪の再開発はどうか。1986年にまち開きした大阪ビジネスパーク(=OBP、大阪市中央区)は約26ヘクタールもの面積を誇るが、各事業者がバラバラにビルを建てる西新宿方式の古い開発スタイルで、近年の再開発にみられる一体感や新しい提案は乏しい。
一方、大阪市が手掛けた阿倍野再開発(大阪市阿倍野区、約28ヘクタール)は、巨額の損失を抱え込む異常事態に陥った。1976年に事業着手し、15年程度で終える予定だったが、3000人超の地権者からの用地買収が難航。今年3月の事業完了までに40年以上を費やし、4810億円を投じたものの約2000億円の損失が生じ、市は今後も2032年度まで負債を支払い続けることになった。
そうした失敗例もある中、13年夏に開業したうめきた1期のグランフロントは、六本木ヒルズと同様にオフィス、商業施設、ホテル、集合住宅などを備え、イノベーション(技術革新)を創造するための知的交流施設「ナレッジキャピタル」も創設し、街に新たな価値をもたらした。
また、14年に竣工した日本一高いビル「あべのハルカス」(大阪市阿倍野区、高さ300メートル)も再開発の成功例だ。百貨店とオフィス、美術館、ホテルなどを備え、天王寺地区の中心施設として賑わいをもたらしている。
ターミナル駅直結
うめきた1期・2期は、東京の再開発を代表する六本木ヒルズと比べ3つの点で優れている。
1つは、日本有数のターミナル駅に直結する「地の利」だ。六本木ヒルズに最寄りの六本木駅には地下鉄2線が乗り入れているが、東京、渋谷、池袋といったターミナル駅からのアクセスでは乗り換えを要する。
「大阪最後の一等地」と呼ばれるうめきたは、JR大阪駅に直結し、阪急電車・阪神電車の梅田駅にも接続。地下鉄も梅田エリアに複数の路線が乗り入れている。さらに2031年開業予定の鉄道新線「なにわ筋線」の新駅が2期開発の地下に建設される。交通の利便性は抜きん出て高い。
来訪者数を比較すると、六本木ヒルズは開業5年目で2億人を達成したが、うめきた1期のグランフロントは3年10カ月で到達。集客力はすでに上回っている。2期が開業すれば、集客ペースはさらに加速するだろう。
2つ目は、1期、2期で計約23ヘクタールに及ぶ広大な開発面積だ。六本木ヒルズや恵比寿ガーデンプレイスの2倍以上にのぼり、品川インターシティ(東京都港区・品川区、約3・6ヘクタール)、東京ミッドタウン(東京都港区、約6・9ヘクタール)などと比べてもはるかに広い。
1期、2期は開発時期が異なるが、全域を三菱地所、オリックス不動産、阪急電鉄などほぼ同じ事業者のグループが手がけることで、建物や事業展開の統一感を保ちつつ、多彩な開発や利用が可能になる。
「次代」に続く開発
3つ目は、最新のコンセプトや開発計画だ。六本木ヒルズ型の成功は、うめきたも1期で追随して実現しており、2期では全く新しいコンセプトを打ち出した。中央部分を「うめきたの森」など公園として整備し、その北側にはイノベーションを目指す産学官民の交流ゾーンを設ける計画だ。豊かな緑とイノベーションを都心で融合させる、斬新な概念といえる。
六本木ヒルズ開業から15年を経てスタートするうめきた2期が完成するのは、平成の次の時代だ。「昭和」の西新宿やOBP、「平成」の恵比須ガーデンプレイスや六本木ヒルズと異なり、うめきたは平成から「次代」にかけて開発が展開される。
例えば、六本木のランドマークは地上54階の威容を誇る六本木ヒルズ森タワーだが、うめきたは2期が完成すれば、ビルとビルの間に広がる森や広場がそのシンボルになるだろう。建物よりも、緑と、そこで展開される催しやイベントが意味を持つ街になる。
うめきたには追い風も吹いている。平成の都市開発は、バブル経済崩壊後の長い景気低迷に見舞われ、街の盛り上げに苦心した。しかしうめきた1期の開業後、国内景気は緩やかに回復を続けているほか、関西では訪日外国人客(インバウンド)の爆発的な増加によって国際化が進み、小売り・サービス業は好況が続いている。うめきた2期は、大阪市内でも心斎橋・難波界隈のミナミに集中しがちなインバウンドを、梅田を中心とするキタへと誘う吸引力を発揮するかもしれない。
過去の大阪の都市開発は東京に比べて見劣りしたが、うめきた2期は一気に東京を追い抜く可能性を秘めている。今後策定する詳細な事業計画には、さらに先進的な取り組みを盛り込んでいくことを期待したい。(上野嘉之)
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