明治の50冊

(22)樋口一葉「たけくらべ」 雅俗折衷体で思春期の葛藤

 句点がほとんどなく、読点のみで連綿と続く行文は、現代では読むのに難儀する「古文」だ。戸松さんは、授業でまず朗読を聞かせると、話し言葉が多くて分かりやすいという学生の感想があるという。岩波、新潮などから文庫本が出ており、集英社文庫では、句点を補い、会話にカギ括弧をつけるなど、読みやすく編集されている。

 ある霜の朝、家の格子門にさされていた「水仙の作り花」を美登利が愛(め)でる場面で作品は終わる。誰が造花をさし入れたのか。信如は美登利のことを思っていたのだろうか。

 謎の答えは、作品の中だけにある。子供時代への郷愁と、過酷な運命にとらわれた美登利という少女への愛惜と…。繰り返し読みたくなる理由だろう。(永井優子)

 次回は23日『若菜集』(島崎藤村)です。

【プロフィル】樋口一葉

 ひぐち・いちよう 明治5(1872)年、東京生まれ。本名・奈津。父は東京府庁、警視庁などに勤める中流家庭に育つ。小学校高等科第4級を卒業後、中島歌子の歌塾「萩の舎」で和歌、古典を学ぶ。父の死後、戸主として文筆で生計を立てることを志し、作家、半井桃水(なからい・とうすい)に小説の手ほどきを受け、25年「闇桜(やみざくら)」を発表。晩年の1年あまりの間に「大つごもり」「たけくらべ」「にごりえ」「十三夜」などを次々と発表。すぐれた日記を残した。29年、肺結核のため24歳で死去。

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