特派員発

5億人が屋外排泄の国 進むトイレ改革 設置しても「不使用」続々…立ちはだかる宗教の壁

 世界で日常的に野外での排泄を強いられる人口は約9億5千万人と推計されているが、インドはその半数以上を占める。携帯電話の普及台数が10億台を超え、7%以上の経済発展を続ける中、トイレに関しては極めて立ち遅れている。

 インドで幼児(5歳未満)の死因の17%は下痢とその合併症だが、原因の8割が排泄物に含まれる雑菌の経口感染だ。専門家からは、井戸や水源付近で排泄が繰り返され、水が汚染される状況が指摘される。

 トイレがない現状は別の危険も引き起こす。UP州では14年5月、用を足すために家の外に出た10代の少女2人が複数の男に性的暴行を受け、殺害される事件が発生した。少女たちの遺体は木につるされて見つかり、社会に衝撃を与えた。各地では、このように野外で女性が性的暴行被害に遭うケースが頻発している。

 排泄中に野犬や蛇に襲われることもあり、「トイレだけで身に危険が付きまとう」(デビさん)という表現は大げさではない。

宗教的価値観の壁

 インドの家庭にトイレが根付かないのは理由がある。排泄とその処理が、インド最大の宗教、ヒンズー教の考え方と密接に関係するからだ。

 ヒンズー教では「浄」と「不浄」という概念が重視される。「トイレは不浄で遠ざけるべきものという意識は伝統的に根強い」と話すのは、インドで衛生環境の改善に取り組む非政府組織(NGO)、「スラブ・インターナショナル」広報のマノジ・ジャハ氏だ。農村部では家を建てる際にヒンズー教の僧侶がトイレを建てないことを勧めることもあるという。家から「不浄」を切り離すためだ。

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