トランプ米政権が中国製品に高関税を課す制裁措置の発端となった知的財産侵害の問題。中国では従来、模倣品を大量に出回らせる単純な知財侵害が横行してきたが、近年は、米企業の従業員やサイバー攻撃などを駆使して、機密情報を窃取するなど手口の巧妙化が際立つ。
(外信部 板東和正)
氷山の一角
「お土産です。サンドイッチと一緒に噛んじゃ駄目ですよ」
昨年2月7日の昼過ぎ。米ワシントン近郊のダレス国際空港のラウンジで、ジーンズにTシャツ姿の中国人男性が流(りゅう)暢(ちょう)な英語を話しながらサンドイッチが入ったジップロックの袋を一緒に食事をしていた男性に手渡した。ジップロックには、サンドイッチとともに長さ1センチ弱の小型USBメモリーが入っていた。
USBを提供した中国人男性は、米東部デラウェア州の化学メーカーの研究開発の部署で勤務していた従業員。情報漏(ろう)洩(えい)の調査にあたった危機管理の専門家、ティム・オグラッソ氏によると、USBには同メーカーの研究者が書いた発表前の論文などのデータが保存されており、渡した相手は中国人民解放軍の関係者と判明したという。オグラッソ氏は「同様の手口で中国人の従業員が機密情報を漏洩した事実を昨年だけで複数確認した。私が見つけたのは、氷山の一角だろう」と指摘する。