まさに「トランプ劇場」の面目躍如である。朝鮮戦争の休戦から65年という年月を経て米朝首脳が初めて握手を交わし、新たな関係構築を宣言した。互いに罵倒するなど激しく敵対してきた国同士が、ここまで急接近するとはだれも予想しなかったはずだ。世界はその舞台を固唾をのんで見守った。
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、トランプ米大統領から体制保証の約束を取り付けた。共同声明では「朝鮮半島の完全非核化」と表明したものの、米国がかねて求めてきた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)への言及はなかった。トランプ大統領が譲歩した姿勢を強く印象づけた。
この米朝首脳会談の直前、トランプ大統領はカナダで開かれた主要7カ国首脳会議(G7)を舞台に、通商問題で日欧首脳と激しい対立劇を演じた。そこでは自由貿易の推進は互いの利益につながるという共通認識が失われ、2国間の取引を通じて自国の利益ばかりを追求する米国の姿勢が目立った。
これで終わらないのがトランプ劇場だ。今度は中国による知的財産権の侵害に対する対抗措置として、550億ドル相当の中国製品に対して追加関税を課すと発表した。すかさず中国も対抗関税の発動を表明し、米中による貿易戦争の様相を呈している。
ハイテク分野の覇権争いに伴う両国の対立がこのままエスカレートすれば、深刻な影響が出るのは避けられない。さらにトランプ大統領は、欧州連合(EU)などに対しても鉄鋼・アルミ製品で一方的な輸入制限を課し、EUも対抗措置に踏み切った。世界貿易は暗雲に覆われつつある。