「アメリカの魂」とたたえられるオートバイは1903年、中西部ウィスコンシン州の粗末な小屋で誕生した。マシンの名前は、開発者のウィリアム・ハーレーとダビッドソン兄弟に由来する。

 ▼日本でも広く知られるようになったのは、69年公開の映画「イージー・ライダー」の力が大きい。無頼な男たちがハーレーダビッドソンにまたがり大陸を疾走する姿は、自由の国・米国を象徴していた。

 ▼その老舗二輪メーカーが、苦渋の決断を下した。売上高の約16%を占める欧州向けの二輪車生産の拠点を米国外に移すというのだ。騒動の発端は、トランプ政権が打ち出した鉄鋼とアルミニウムの輸入制限である。欧州連合(EU)は、ハーレーを対米報復関税の対象とした。米国から欧州に輸出すれば、二輪車1台あたり20万円以上コストが増えることになる。

 ▼トランプ大統領は早速、ツイッターで怒りをぶちまけた。「白旗を上げた初めての企業になったことに驚いた」「我慢しろ!」。トランプ氏は昨年2月、ホワイトハウスの前に並んだバイクの横でご機嫌だった。創業以来ずっと国内で生産を続けている、とハーレーを称賛した大統領の面目丸つぶれである。

 ▼東日本大震災の大津波は、おびただしい漂流物を生み出した。宮城県から流失して太平洋を渡り1年後、カナダの海岸に打ち上げられたハーレーのバイクもその一つである。現在はハーレー社の博物館に収められている。

 ▼EUの報復関税リストには、ハーレーのほか、ジーンズのリーバイスやバーボンウイスキーなども並んでいる。大津波のようなトランプ政権の強引な通商政策がこのまま続けば、海外への漂流を余儀なくされる米国ブランドは、まだまだ増えていきそうだ。

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