日本各地に同人雑誌多しといえど、創刊以来70年を数え、通算800号を超えて継続しているものは珍しい。
関西で発足した「VIKING」( http://viking1947.com/ )も何度か分裂の危機を迎えたが、そのつど、富士正晴の強い思いで継続された。
▼同人誌 VIKING 公式ホームページ(外部サイト:http://viking1947.com/ )
それは「思想としての同人雑誌である」と、昨年刊行された「初期VIKING復刻版」の解説で、近代文学研究者の紅野謙介・日大文理学部教授が述べている。
どういうことか。
富士正晴は「VIKING」について折に触れ書いている。100号突破とか創刊20年とかの節目に書いた文章をまとめた「VIKING号航海記」(昭和42=1967=年)という文章があるが、そこにはなぜ同人誌なのか、富士らしいエピソードをまじえて紹介されている。
例えば足かけ18年、150号をこえた時期に書かれた文章。
「同人雑誌からだれか一人はなばなしい感じで文壇に出かけてゆくと、それがしおで、同人雑誌がつぶれてしまうというようなことがよくあったし、それかと思うと、雑誌からつぎつぎに直木賞作家を出した『近代説話』というような不思議な同人雑誌もあった」
「近代説話」は昭和30年代に大阪で出されていた雑誌で、司馬遼太郎、寺内大吉、黒岩重吾、永井路子ら6人の直木賞作家を出した。
「けれど、文壇への階段としてのみ同人雑誌を見ることはわたしにはできない。同人雑誌読みとしてのわたしのいささかの楽しみは今の文壇で通用しないかもしれないふしぎな純度をもっている作品を読み当てることなのである」