北方謙三さん「チンギス紀」 地平線に向かって書き続ける

 「今はまだテムジンは普通の人間で、母や弟妹、妻ら家族が大事な優等生。それが、やがては家族も氏族も国さえも否定し破壊する。普通の人間から、どう化け物へと変貌するのか。私は普通の人間ですから(書くのは)難しいですよ」

 モンゴルには一度取材に出かけた。当時と変わらないゲル(遊牧民の移動式住居)と、草の海が広がる。5カ月に1冊の刊行ペースで、全11~19巻ほどの長編にする予定だ。

 ハードボイルドから壮大な歴史小説まで極上のエンターテインメントを量産してきた。それでも、「1日1日書くのは苦しい」という。1カ月のうち10日ずつを自宅と別荘、ホテルで暮らし、住まいを変えることで精神のバランスを取る。多くの映画をみるのも音楽を聴くのもすべては小説のためだ。

 「どんな体験も書くことにつながる。青年期のみずみずしさはなくとも、感性はまだしっかりしている。だから、いくら苦しくても書き続けて小説家としての生涯を全うしたい。私にとって、生きていることは書くことだから」

                   ◇

【プロフィル】北方謙三

 きたかた・けんぞう 昭和22年、佐賀県生まれ。中央大卒。昭和56年『弔鐘はるかなり』で単行本デビュー。平成16年、『楊家将』で吉川英治文学賞。『水滸伝』『楊令伝』『岳飛伝』の「大水滸伝」シリーズで25年、菊池寛賞。『三国志』(全13巻)、『史記 武帝紀』(全7巻)など多数。