北方謙三さん「チンギス紀」 地平線に向かって書き続ける

登場人物は「自分」

 1巻だけで、主な登場人物は40人を超え、敵対勢力の頭領らの心情も丁寧に描写される群像劇。自らの小心さにさいなまれる屈折した頭領や敵対勢力にいながらひそかにテムジンを助ける商人、テムジンをかくまうことで生きがいを見いだす書肆(しょし)(書店)と妓楼の経営者、蕭源基(しょうげんき)などいずれも個性的だ。

 「登場人物はすべて自分の仮託です。卑怯(ひきょう)な人間は卑怯なときの自分。自分は無限にいて、たとえ一瞬であってもその気持ちは本当だからリアリティーがでる。蕭源基の場合は、本と女性に囲まれて暮らすという夢を具現化させた」と笑う。

 共通しているのは、いずれも何かを求め続けていることだ。テムジンをかくまったことで賊に襲われ、その1人を殺した蕭源基は、後になってテムジンに言う。

 〈自分がこうだと思っていた自分と、また違う自分がいるということを、実感したかった〉

 「遊郭の収入で好きな本を集めても、内向きな人生では何も変わらない。テムジンと出会ったことで外に向かう。もともと破壊衝動のある男だから、きっかけを待っていた」