犬猫収容数・殺処分実態反映しない神奈川県発表 ほど遠い「ゼロ」、誤解の恐れ

 「犬の殺処分は5年連続、猫は4年連続ゼロを達成しました」-。県動物保護センター(平塚市)に収容された犬猫の実績値を発表した4月末の記者会見で、「殺処分ゼロ」という成果に胸を張った黒岩祐治知事。動物愛護の意識向上を図る中で、その発表方法が県民をミスリードしかねないとして、県内各地の動物愛護(保護)センターや保健所などの一部の関係者から懸念の声が上がっている。(外崎晃彦)

 県が発表する犬猫収容数や殺処分などの数値は、横浜、川崎、横須賀の3市の実績を含まない。3市が独自に動物愛護センターを持つためだ。さらに相模原、藤沢、茅ケ崎市なども数値に含めず、外数として公表している。

 ◆横浜など含まず

 横浜、川崎、横須賀の3市は、面積比で県内の約3割、人口比では県内の6割超を占める。その3市を含めた県全体の実績値は「殺処分ゼロ」にはほど遠い。

 公表されている集計時期にズレがあるため単純比較や合算はできないが、年間の殺処分件数は、横浜市が犬36件、猫404件(平成28年度)。川崎市が犬0件、猫4件(同)。横須賀市が犬1件、猫37件(27年度)。県全体のおおよその年間殺処分件数は犬が30~40件、猫は400件を超えているのが実態だ。

 一方で県の発表は「県全体の成果」という印象を与えるため、実態を知る一部の県民や関係者らが違和感を覚えている。県内の各愛護センターは、ペットブームに乗じた安易な飼育開始に警鐘を鳴らしている。

 ただ、「殺処分ゼロの達成感が『現状には問題がない』と世論をミスリードして、動物愛護精神の広がりをはばむことにもつながるのではないか」。そう懸念する職員もいる。

 ◆ずれている焦点

 3市内では、やむを得ない事情で手放すことになった飼い主が「殺処分されることはない」と誤解したまま愛護センター収容を決断するケースも想定される。川崎市動物愛護センターの担当者は「飼い主には殺処分の可能性もあるということを必ず事前に伝えている」と話すが、実情を知っていれば当初から収容を回避し、別の飼育手段を模索する可能性もある。

 横浜市動物愛護センターの担当者は「負傷で苦しみ、衰弱が著しい場合や攻撃性が非常に高いなどのケースを除き、(収容上限を超えるなどの理由で)健康な状態の個体を殺処分することはない」としている。

 「殺処分数ばかりをクローズアップしすぎている。動物愛護にまつわる諸問題の根本解決には、多くの犬猫が収容され続けているという現実の方を強調するべきではないのか」。愛護センターの関係者の一人は、こう疑問を呈する。

 別の関係者は「殺処分というインパクトの強い数字を持ち出すのは、動物愛護への関心を集めるためには有効かもしれない」と前置きした上で、「それがプラスに働く場合もあり、一概に否定はできないが…」と複雑な表情を浮かべる。

 ◆年間約3千頭

 関係者の一人は「殺処分イコール悪、という風潮が怖い。センターには殺処分に直接手を下さなければならない職員もいる。そこに批判的な目が向けられることにも胸が痛む」と苦しい心情をにじませる。県内の動物愛護(保護)センターには年間約3千頭の犬猫が収容されている。

 愛護団体やボランティア団体、獣医師会などが収容前に引き取るケースも多いといい、身寄りのない犬猫の実数はさらに上回る。

 センターから犬猫を引き取る団体の負担は大きい。殺処分ゼロが目的化しているために、許容量を顧みずに引き取ろうとする団体も見受けられるという。

 愛護センター側の担当者は「団体側が無理をしていそうな時は、引き渡しを断らせてもらっている」とした上で、「殺処分に行き着くまでに、収容される動物がいるということの方が問題。収容を減らすための努力に、世論が向くような取り組みが必要だ」と話している。

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