筒井康隆さん新刊「誰にもわかるハイデガー」 死を思い、生を見る

 「読んでいると、世の中が歪(ゆが)んできているのが分かる。小説の賞も今は芸術としての評価だけでなく『売れる』という資本主義や民主主義の視点が入ってきているでしょ。僕は何でも民主主義のせいにするからツイッターで炎上しちゃう。まあ、構わないですけど」

 ◆出てくる言葉のギャグ

 〈おそらくは最後の長篇〉と銘打った小説『モナドの領域』を出してから2年半。「まとまったストーリーはもう出てこない」と言うが、最近も抱腹ものの短編を精力的に発表している。「なんやかやと言葉のギャグが出てきて、書きたくなるんです」。人を面白がらせようとする気概は健在で、そのための手間は惜しまない。これも、死を思い、生を見つめる『存在と時間』の思想の体現?

 「そう、僕は全く真剣さのかけらもなさそうなドタバタものばかり書いてきた。でもね、考えたらどれも真剣に書いているんですよ。『存在と時間』は僕の中心部にドカーンとあります」

【プロフィル】筒井康隆

 つつい・やすたか 昭和9年、大阪府生まれ。同志社大文学部卒。62年に『夢の木坂分岐点』で谷崎潤一郎賞、平成元年に「ヨッパ谷への降下」で川端康成文学賞。29年には『モナドの領域』で毎日芸術賞。ほかに『時をかける少女』『虚人たち』など著書多数。

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