筒井康隆さん新刊「誰にもわかるハイデガー」 死を思い、生を見る

 だからユーモアを交えつつ、有名な〈死への先駆〉のくだりを丁寧に説く。〈先駆ける〉といっても〈早く死のうとか、そこで死んでしまうということではない〉。誰にとっても死は不可避で、いつ来るかも分からない。そして、生には限りがある-。〈それを自分の身に徹してみるんですね。そのために当然、では自分は今何をすべきか〉という思考へ導かれるのだという。

 「死への恐怖は自分固有のものだから、どんなに仲間を集めたってやはり震え上がる。でも死が避けられず来ることを認識し、きちんと向かい合うことで自分のすべきことに『真剣さ』がうまれる-というわけです。将来死ぬということに落ち込む人は相当いるけれど、これで多少はね、気が楽になると思うんです」

 出版から90年が過ぎても『存在と時間』への関心は衰えず、国内でも入門書や新訳の刊行が相次ぐ。興味深いのは死をめぐる思想だけではない。〈世間に流通している普通の既成の解釈のパターンで何でもしゃべってしまうしゃべり方〉などと説明される〈空談(くうだん)〉への批判的なまなざしは、瞬く間にネット上で言葉が拡散するSNS全盛時代に重く響く。

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