夜は「巷談宵宮雨(こうだんよみやのあめ)」。宇野信夫作の新歌舞伎で、オール初役だが、世話物ならではのリアリティー芝居と、大場正昭の余情漂う演出が重なって絶妙な仕上がりに。うらぶれた長屋住まいの庶民層が欲にまみれ、ふてぶてしく、かなしく生きる。破戒僧龍達(中村芝翫(しかん))と、おい太十(尾上松緑(しょうろく))との、龍達の隠し金をめぐる確執。ついに怪談噺(ばなし)へと発展するが客席の笑いは消えず、幽霊登場にも沸く一興の芝居だ。
夜の初めに中村吉右衛門が歌舞伎の様式美をしっかり刻む「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」。26日まで、東京都中央区の歌舞伎座。(劇評家 石井啓夫)