同人誌「VIKING」( http://viking1947.com/ )は昭和22(1947)年10月にスタートした。とじる糸がないため折りたたんだだけの冊子。ガリ版刷りのこの貧弱な冊子は、どこの同人誌よりも息長く70年の歴史を刻み、航海を続けている。
▼同人誌 VIKING 公式ホームページ(外部サイト:http://viking1947.com/ )
ずっと順風満帆だったわけではない。ときには発行人も沈没したかと思うほどの荒波にもまれた時期もある。とりわけ、初期の航海は厳しかった。
その初期のVIKINGを復刻した「初期VIKING復刻版」が昨年、三人社(京都市)から出された。全7巻・別冊1巻の大著。創刊号から昭和28年3月発行の47号までを復刻したものだ。
復刻版で解説を書いた富士正晴記念館職員でVIKING同人の中尾務さん(69)は、「何度もあった危機を乗り越えることができたのは、発行人の富士正晴に強い意志があったから。それだけに内容も執筆陣も充実して読み応えがある。なぜ同人誌なのか、なぜVIKINGなのか、初期の混乱には同人誌をめぐる真摯(しんし)な問いかけが含まれている」と語る。
真摯な問いかけとはなにか。
富士は戦前出していた同人誌「三人」の復刊を願って、復員した翌年に「VIKING」を創刊した。戦前の仲間がすべて再結集することはなかったが、その流れをくむ人たちや、詩人・伊東静雄を通じて知り合った人々が同人になった。
伊東静雄を通じた知人の一人が島尾敏雄だ。島尾は戦後、神戸で教師をしながら、九州大学の同窓生だった庄野潤三らと同人誌を出した時期もあったが雑誌は長続きせず、知己を得た富士に誘われ、「VIKING」に参加したという形だ。一方、富士の方は島尾の参加に強い思いを寄せている。
「島尾敏雄とつき合っているうちに、ひょいとVIKINGという標題の雑誌をやってみたいと考えました。それはひとえに島尾の自家版の短編集『幼年記』のうちにひそかに鳴りひびいている語感、言葉に対する微妙な感覚にほれこんだからと言えましょう」
これは「仮想VIKING50号記念祝賀講演会」における富士の言葉だ。