正論7月号

文在寅、自由の破壊 いよいよ韓国の赤化が始まった 元韓国駐日公使 洪●

世論操作と超法規政治

 だが、この過程で韓国は天文学的な負担を負うことになる。十一年前に盧武鉉が金正日に約束した支援規模は、当時の韓国の国防費の四年分以上だった。今回は国際社会の対北制裁措置のため当面は内容を公開できないが、文在寅は大統領補欠選などで、「十・四宣言」当時の十倍以上を口にしていた。文在寅がどれくらい支援するつもりかを金正恩は知っている。四月二十七日に板門店を二人きりで散歩した時、文在寅が金正恩に手渡したUSBメモリには、連邦国家になって北を支援する事業の青写真と金額などが入っていたともされる。

 とはいえ、文在寅政権が発足後一年で赤化計画をすべて実行できたわけではない。特に、金正恩との連邦制に備え大統領就任直後に発議した改憲案について、地方選挙と同時に国民投票を行おうとしたが間に合わず失敗。社会主義憲法への転換挫折は痛かったはずだ。今年三月にも「請願政治」方式によりわずか一カ月で改憲案を作ったが、折しも大統領選の際に文在寅支持拡大のため極秘稼働した世論操作チームの存在が発覚(ドルイドキング事件)。これで社会主義憲法案はいったん廃棄された。

 インターネットのブロガー「ドルイドキング」を中心とする世論操作チームは、会員が五千人程度で、文在寅の最側近の金慶洙議員と文大統領夫人が関わっていることも確認された。自由民主政治の根幹を揺るがす犯罪行為であり、通常の法治国家なら文在寅大統領は弾劾と処罰を免れまい。

 「ドルイドキング」のような組織は少なくとも四チーム存在。文政権下の検察と警察は露骨に事件の隠蔽と証拠隠滅に加担したが、世論の沸騰に抗しきれず、特別検事が調査することになった。

企業や富裕層の国外逃避始まる

 文政権はこの一年で韓米同盟から急速に離反した。金正恩の歓心を買うためなら法律など眼中にない。「板門店宣言」に基づき、すでに休戦ライン一帯の国軍陣地を崩している。甚だしきは、北の要求に応じて、中国で営業していた北韓食堂から集団脱北した女性従業員十二人を北へ送還しようとしたが、さすがに世論の激しい反発で実行してはいない。

 文在寅と金正恩の直通電話は四月二十日に設置されている。文在寅側はまだ実際の通話はないというが、確認する方法はない。

 文政権は、北の非核化など安全保障問題は米国に任せ、脱原発に執着し、大企業と富裕層への憎悪を煽る政策で経済の土台を崩している。大企業は海外へ逃避せざるを得なくなり、雇用の縮小と製造業の空洞化が進む。反大企業政策で特に若者の雇用が減り、日本に就職する韓国の若者が増えているのは周知の事実だ。

 外国への移民も増えている。国を出たくても移民できない国民は挫折感に沈む。文政権が不法滞在の外国人への福祉や医療支援を自国民以上に手厚くし、財政を逼迫させていることも国民を苦しめる。

 発足二年目を迎えた文在寅政権は五月十三日、積弊の清算を「権力型積弊」から「生活型積弊」段階に進めると宣言した。本格的な社会主義体制への移行宣言だ。しかも、国民生活の統制を法律ではなく、「国民の意思」や「大統領の命令」だけで進めようとしている。五月十四日には富裕層の資産海外移転を過去に遡って調査するための「汎政府の合同調査団」設置を指示した。

 こうした文政権による自由民主体制破壊は、メディアを利用した情報操作と扇動で国民を集団催眠状態にしながら進められている。

文氏が共産主義者の数々の根拠

 文大統領は確かに共産主義者だが、実は、共産主義者か否かの裁判が行われている。有力な公安検事で、盧武鉉政権の政治圧力で辞めざるを得なかった高永宙弁護士六九が二〇一三年一月、保守系の新年会で、過去の言動から「文在寅は共産主義者である」と発言したとして告発されたのだ。

 高弁護士は「文大統領は以前から国家保安法廃止や連邦制統一を主張し、在韓米軍撤退を誘導する活動もしてきた」「憲法裁判所による左翼の統合進歩党解散判決(二〇一四年十二月)の根拠である進歩的民主主義(共産主義)を目指すと述べた」などと指摘。

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