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作家・北康利 好きな作家の文章追い求め… どこに掲載されていても必ず見つける 『司馬さん、みつけました。』山野博史著

 「お前(まん)らが、わしら維新で働いた連中とちがうところは、命が安全じゃ。命を賭けずに論議をし、集団のかげで事をはかり、つねに責任や危険を狡猾(こうかつ)に分散させちょる」(『竜馬と全学連の架空会見』)など、本書には司馬ファンにはたまらない文章がちりばめられており、タイトル通り、「この文章も見つけちゃったの?」と、司馬さんが照れたような顔でこちらを見ている錯覚に陥る。

 同時に本書は、本好きかどうかがわかる「リトマス試験紙」でもある。そうでなければ頻出する引用元の表示は鬱陶(うっとう)しいだけだろう。本好きが減り、書誌学者ともなると失礼ながら絶滅危惧種ともいえる存在だが、一方で人間くささを感じずにはいられない。(和泉書院・2000円+税)

 ■『人間通』谷沢永一著

 谷沢永一さんが残した名著である。結局、作家は人間を突き詰めていく。その作家を突き詰めていく書誌学者は、さらに煮詰まった人間をそこに見ることになる。

 そうした営みをどう感じるか、山野博史さんの著書のところで述べた「リトマス試験紙」の結果が本好きと出た方には、こちらもお薦めしたい。(新潮選書・1300円+税)

【プロフィル】北康利

 きた・やすとし 昭和35年12月、名古屋市生まれ。東京大学法学部卒。評伝を中心に『白洲次郎 占領を背負った男』(第14回山本七平賞)など著書多数。