かつてリビアの最高指導者だったカダフィ大佐は、テント暮らしを好んだ。2009年に初めて国連総会に乗り込んだ際も、テントを張って野営しようとした。ニューヨークの住民が猛反発して大騒動に発展する。

 ▼大佐にとってテントは、もともと遊牧民だったリビア人の伝統文化である。それを相手国が受け入れるかどうかは、大佐の権威にかかわっていた。同じ独裁者でも、体面の保ち方が大きく違うようだ。

 ▼米紙ワシントン・ポストによると、12日にシンガポールで開かれる史上初の米朝首脳会談で、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、五つ星の最高級ホテルでの宿泊を望んでいる。スイートルームなら1部屋1泊6000ドル(約65万円)もかかる。

 ▼代表団の滞在費は、外貨が極端に不足している北朝鮮がとても支払える金額ではない。そこで、関係国に肩代わりを求めているというのだ。なんともあつかましい提案だが、シンガポール政府や昨年ノーベル賞を受賞した民間団体「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」は、負担する意向を示している。

 ▼古典落語の「居残り佐平次」にも、あつかましい男が登場する。主人公の佐平次は、品川の遊女屋で仲間とどんちゃん騒ぎを繰り広げ、何日も居続けながら、一銭も払わなかった。揚げ句の果てに、遊女屋の主人をペテンにかけて、大金と上等な着物を巻き上げる。

 ▼トランプ米大統領との会談に臨む正恩氏の狙いは、体制の保証と経済支援の約束を取り付けることだ。トランプ氏は財政的支出については、日本と韓国、中国に任せる考えだという。日本が応分の負担を引き受けるにしても、それは北朝鮮がすべての核兵器を廃棄し、拉致被害者全員の帰国がかなってからの話である。

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